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カフェにいたはずなのに、私はレトロな映画館のど真ん中に座っていた。慌てて立ち上がろうとすれば後ろから「大丈夫ですよ」とヨピさんの声がした。
振り返るとにっこり私の肩に手を添えて、飲みながらスクリーンを見ろという仕草をする。両手にはマグカップを持ったまま、サイドテーブルにはトレーにのったティーポットまである。
「はあ」
あれ、私の声? 出してないはずのため息が聞こえた。スクリーンにはコンビニで雨宿りする私の姿が映し出されている。
「……ひどい前髪」
呟きながら座り直し、ヨピさんの言うとおりにスクリーンを眺める。
550円、ウインドウショッピング、苦手な同級生の面影、張り付くスカート。今日のモヤモヤをたどっていくストーリーにため息にもならない空気が鼻先から漏れた。
――心に詰まった複雑な感情を解いてあげたい。
ヨピさんの言葉が思い浮かぶ。確かに解けてはきたけれど、軽い羞恥と苦笑いしか残らない。スピーカーから聞こえてくる、ビニール傘を叩く雨音はやはり嘲笑だ。
一杯飲みきって、ティーポットに余った分を注ぐ。マグカップ二杯目、スクリーンには見覚えのある青い傘をさした私が映っていた。でも確かあの傘は壊れたはず。
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