コップフキーノ

7/9
前へ
/9ページ
次へ
貝原(かいはら)さん」  若い、男子の声だ。心臓が跳ねる。まさかこの声は――「銀くん!」  やっぱりそうだ。大人しいのに運動神経がよくて運動部に引っ張りだこだった、そしてちょっとだけいいなと思っていた男の子。よく見たら私も彼も懐かしい制服姿だ。 「今日は部活ないの?」 「雨だし、逃げてきた」  若かったなあ。肌の張りが全然ちがう、なんてストーリーと関係ないところに目が行く。コップフキーノは飲みやすいけど、二杯目は酸味が強かった。下に溜まっていたのかな。 「スガセンが怒ってチョーク折った話聞いた?」 「うん、あれ俺らのクラス」 「えー! 本当?」  一軍女子ではなかった、でも若いってきらきらしている。青い傘をくるりと回して青春している。自分の過去なのに眩しい。 「じゃあうちのクラスの田崎さんてわかる? 銀くんのクラスに彼氏がいるんだって」  あれ、ちょっとまってこの日って。 「……それ、俺だよ」  息が詰まる。スクリーンの中の10代の私と同じように。 「へ、へえ、そうなんだ! 全然教えてくれないから秘密なのかと思ったあ」 「秘密だよ。だから帰りも別々。でも貝原さんは守ってくれそうだから」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加