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「貝原さん」
若い、男子の声だ。心臓が跳ねる。まさかこの声は――「銀くん!」
やっぱりそうだ。大人しいのに運動神経がよくて運動部に引っ張りだこだった、そしてちょっとだけいいなと思っていた男の子。よく見たら私も彼も懐かしい制服姿だ。
「今日は部活ないの?」
「雨だし、逃げてきた」
若かったなあ。肌の張りが全然ちがう、なんてストーリーと関係ないところに目が行く。コップフキーノは飲みやすいけど、二杯目は酸味が強かった。下に溜まっていたのかな。
「スガセンが怒ってチョーク折った話聞いた?」
「うん、あれ俺らのクラス」
「えー! 本当?」
一軍女子ではなかった、でも若いってきらきらしている。青い傘をくるりと回して青春している。自分の過去なのに眩しい。
「じゃあうちのクラスの田崎さんてわかる? 銀くんのクラスに彼氏がいるんだって」
あれ、ちょっとまってこの日って。
「……それ、俺だよ」
息が詰まる。スクリーンの中の10代の私と同じように。
「へ、へえ、そうなんだ! 全然教えてくれないから秘密なのかと思ったあ」
「秘密だよ。だから帰りも別々。でも貝原さんは守ってくれそうだから」
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