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──その日以降、僕の前に座る大和は外を見つめる事をやめたんだ。
気付けば僕の眼鏡を掛けながら、しっかりと授業に挑んでいる。
その横で駿は、いつも通り居眠りなんかこいちゃって…だから僕は、メモ用紙をちっちゃく丸め、駿の頭にシュートを決めてやったんだ。
「はいっ!?おはようございまぁす!?」
僕、ナイスシュ〜トっ♪
頭に当たったメモ帳に驚き、目を覚ます駿に先生も「水上っ!うるさいぞ!」なんて叱責しているけれど、いつもの事なので、みんなにも笑われる駿。
駿は僕の方を見つめ『お前だなっ!?』とでも言っているかのような顔で睨みを利かせてきたけれど、言ったじゃん、僕の隣にいたら寝られないって!
「あははっ」と笑う周りのクラスメイトとは裏腹に振り向いた大和の表情は、どこか羨ましそうな表情に見えてしまったのは…僕だけ…?
そして、お昼ご飯の購買争奪戦争はやっぱり苦手だ。
僕、大和にいちごオレを買った時、ほんとに無我夢中だったんだなって今になっても思うよ。
今日も駿が僕のために、いちごオレと鶏の照り焼きパンを手に入れてくれた。
いつも申し訳ないなぁ…そんな事を思ったけれど、駿は自分のも買うんだからいいんだよって、いつも優しく微笑んでくれるんだ。
心強い僕の親友…ほんと毎度思うよ、こんな風に強くなれたらいいのにな…
でも、それは叶わぬ願いだ…僕はΩだから…
「ねぇ駿、今日は教室で食べよっ!」
「ん?なんでだ?」
「駿と大和と一緒に食べたいんだっ♪」
「ええっ!?俺も山際と…!?」
「い、嫌だ…?」
僕と大和は友達になれたけれど、駿は大和とろくに話をしたことが無い…いや、大和は僕以外のクラスメイトとも会話なんてしたことが無い。
駿がどんな風に大和のことを捉えているかは分からない…それでも僕は、自分の親友には自分の友達と仲良くして欲しい。
三人でこれからも仲良く出来たらいいなと、僕はそんな気持ちが強く滲み出てしまっていのかもしれない。
「い、嫌じゃないけど…」
「なら決まりだっ!駿、行こっ!」
僕はまた駿の手を握りしめ、教室へと急ぎ戻っていったんだ。
◇ ◇
──教室に戻ってみると、大和はいつも通り席に座っていた。
大和…お昼ご飯何も持ってきてないのかな?
食べてる姿を一度も見たことがない…
僕と駿は自分の席に着き、僕は大和にひと声掛けた。
「大和っ!一緒にご飯食べよっ!」
「うん?俺とか?」
「大和は、君以外いないでしょ…それと、駿も一緒に!!」
僕は大和に、改めて駿を紹介したんだ。
大和の反応も気になるところだったけど、なんやかんやで二人とも「よろしくな」と声を掛け合っているのを見て、僕は少しホッとしていた。
その後、僕はストローの刺さったいちごオレと鳥の照り焼きパンを口へと運んでいき、駿も焼きそばパンを頬張っていたけれど、大和はやっぱり何も食べていない。
「ねぇねぇ、大和はお昼ご飯食べないの?」
駿も僕の言葉に合わせて「山際、いつもなんも食ってねぇよな」と実は気になっていたようだったんだ。
「俺、昔からお昼ご飯ってあんま食べてなかったんだよな…そんなお腹も空かないし」
「まじか…俺なんかこの焼きそばパンを食っても腹減ってんのに…」
「駿はバスケ部で身体も動かすからお腹空くんじゃない?」
「そうか〜!そりゃそうかもしれねぇな!」
ガハハと笑う駿に、大和もふふっと笑みが零れている。
うん…!いい感じだ!
このまま、駿も大和も距離を縮めて仲良くなってくれたら僕も嬉しいな…!
そんな事を思っていたその時だった。
大和が徐に僕のいちごオレを手に取り…
「でもな?腹は減らなくても喉は乾く、お前のものは俺のものだから…」
そう言い残し、大和は僕が使ったストローにそっと口を付け…いちごオレを喉へと通していったんだ。
「うん、やっぱ裕翔の大好物はうまいな、ほら、お前も飲めよ」
…えっ…?ええええっ!?
こ、これぞ正しく俗に言う…
か、間接キスってやつ…!?
こんな経験をしたことが無い僕は、次のアクションをどうしていいのか分からなかった。
しゅ、しゅ〜んっ!
この後、どうしたらいいの!?
僕は咄嗟に駿に目を向け、助けの眼差しを送ってみたんだ。
「まぁあれだろ、俺のものってのは、よう分からんが友達同士で回し飲みとかぐらいはやるだろ?俺も部活中、飲み物足りんやつに分けてやることあるもんな」
あ…そうなんだ…
ぼ、僕の考えすぎなのかな…?
駿にそう言われ、僕の気持ちは少しホッとし…大和が口を付けたストローに僕の口も付けてみたんだけれど…
大和が使ったストローから僕の口へと流れ込むいちごオレは、何だかいつもよりも甘く感じてしまったんだ。
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