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プロローグ
四月 新学期
心地の良い春の温もりが、自転車で駆ける僕の頬を包み込み、街並みは新芽が息吹を上げて緑々しい匂いが漂っている。
今日から新学期…また新たな一年、そして高校生活最後の一年が始まるんだと、僕は意気揚々としながら高校まで自転車を漕ぎ続けていった。
高校に着き、駐輪場に自転車を停めた僕に一人の男の子が話しかけてきた。
「おうっ!裕翔、おはよっ!」
僕の名前は山下 裕翔。
今日から高校三年生になるんだ。
そして、僕の名前を呼んでくれたのは、一年生の時から仲良くしてくれている親友で、同い年の水上 駿。
僕よりも20センチぐらい背が高くて、スラっとした体形、さすがバスケ部の主将なだけある。
それと同時に駿はβという第二の性を持つ男の子だ。
僕の住むこの世界には、男と女の性別の他にα・β・Ωの第二の性に分かれている。
αはエリート、βは一般人、Ωは下層民…そんな括りで僕たちの世界は回っている。
だからβである駿は、ある意味普通の男の子に当たる。物心がつく頃からそんなことを僕たちは学校や親から教わってきたんだ。
じゃあ、そんな僕はというと…
実は下層民に当たるΩの性を持つ人間だ。
年頃になって、自分でも自分の身体がよく分からなくなる時があって、誰にも相談出来ずに沢山悩んだこともあった…
どんなに学校でα・β・Ωの事を教えてもらったとしても、Ω自身ではないと分からない身体や気持ちの事で自分自身を制御出来ない時もあった…
現に今でも一人の時は、どうしようもなく苦しい時もあるぐらいなんだ…
それと、エリート層のαやこの世に多く存在するβ。その中でΩの存在は、世の中からもあまりいい印象がないみたいだ。
だから、僕はΩなのにβと偽って高校生活を送るようにしている。
もう二度と…あんな思いはしたくないから…
自分の心に僕はβなんだと言い聞かせながら、この二年間を何事もなく過ごしてきた。
この高校には、βの性を持つ生徒しかいない…いや、もしかしたら僕のようにΩを隠している子もいるのかもしれない。
もちろん、駿にも僕がΩだということはバレていないようだ。
このまま何事も無く過ごせますように…!
「とうとう三年生かぁっ!裕翔っ!また同じクラスになれるといいなっ!」
「うんっ!そうだね!僕も駿と同じクラスになれるのか、楽しみなんだ!」
僕たちはクラス替えの一覧表をドキドキとした気持ちで一緒に見に行く事にしたんだ。
◇ ◇
「水上…水上……おっ!あったあった!俺、二組らしいわ!裕翔は…?」
「…山下……あっ!あった!駿、やった!僕も二組だっ!」
そう、僕たちは晴れて最後の一年も同じクラスで過ごすことになったんだ。
「よっしゃ~!」と喜んでくれる駿に僕も心から嬉しくなったし、親友の駿がまた同じクラスなら、変わらず楽しい学校生活が送れるとそんな風に僕は思った。
「裕翔、今年も一年よろしくなっ!」
「うん!こちらこそよろしくねっ!」
僕たちは三年二組の扉をくぐり抜け、高校生活最後の一年が幕を開けることになったんだ。
そう…この時は、僕の思いや人生のすべてがどんどんと変化していく事になるなんて…この時はこれっぽっちも考えもつかずに…
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