振り向かせたい、その背中

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振り向かせたい、その背中

 駿と教室に戻ると、他のクラスメイトは各々輪を作り、楽しそうに過ごしているのに、山際くんはポツンと外へ顔を向けながら、僕の席の前に座っていたんだ。  仕方ないよ…周りを引き付けたくないようなオーラをそんなに出しちゃったら、誰も声なんてかけられないじゃん…  それでも、僕は彼の背中を振り向かすと決めたんだ…!よしっ!善は急げだ!早速、行動に移してみよう!  僕は自分の席に戻り、大きく小さな背中に向かって一声かけてみたんだ。 「や、山際…くん…?」  ふ、振り向いてくれるかな…?  そんな僕の思いは簡単に届くはずもなく、彼は僕に顔を向けようともしない…  くそ、負けないぞっ! 「僕…山下…山下 裕翔!聞いてるか分からないけど、もし覚えててくれたら嬉しいなっ!」  僕から自己紹介をしても、彼は僕に顔を向けようともしない…  周りのみんなも裕翔、なにやってんの…?みたいな顔で、コソコソと話しているのが見て取れる。  そんな周りの言葉が僕に聞こえていたとしても、僕は君を振り向かせたいし、僕は君の友達になりたい…!  まだまだ始まったばかりだ…!  うるせぇ!って言われるまでやってやる!  ◇ ◇  ──その日以降、僕は山際くんに対して色んなアクションを起こしてみたんだ。  それと同時に、彼のことを観察してみることにした。え、ちょっと僕が変な人みたいになっちゃってる…?!そ、そこは置いておいて!  ま、まずは朝だ!  不思議とツンケンしているくせに、山際くんは誰よりも早く教室に着いていて、僕の席の前に座っている。  僕も僕で自転車通学だから皆より少し早く着いていたんだけれど、それよりも早いって…  そんな事を考えながらも僕は「山際くん、おはよう!」と必ず声をかけるようにしていた。  それでも彼は僕に振り返ってはくれない…  いいんだ、僕の声だけでも届いてくれていたら…  そして授業中  山際くんの後ろに座る僕は、彼の動きを観察していた。  気付けば彼は、ず〜っと外を眺めている…ノートに何かを書こうともしていない…まだ新学期も始まったばかりだし、先生は何も言わないのかな…?  でも、そんな事してたら駿のようにテストとか大丈夫なの…?  そんな事を思っていたその時… 「ぶえっくしゅ〜んっ!!」  僕の隣で駿がとても大きなくしゃみを教室中へと響かせたんだ。  さすがに先生も「おいおい、水上〜っ!うるさいぞぉ!?」と注意する。 「すんませんっ!いやぁ、誰かに噂話でもされてんのかな、俺!」  そんな返答に周りの皆も「あははっ!」と笑って駿に応えていたけれど、駿…ご、ごめん…くしゃみの原因…きっと僕でぇすっ…  そんな風にみんなで笑っていても、山際くんはビクとも動かず、ただ外を見つめているだけ…  今…君は何を考えて、外を見つめているのかな…?  僕の声…君に届いているのかな…?
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