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──教室に戻ってみると、山際くんはいつも通り席に座っていた。
そういえば山際くん、お昼ご飯食べたの…?
変わらず外を見つめては、誰も周りに引き寄せようとしないし、お昼ご飯を食べたであろう痕跡もない。
そうだ…ここ数日、彼を観察していたけれど、お昼時間も彼がここから動いた事を僕は見た事がない。
僕は心配になったんだ…さすがにこの後、授業も続くのに食事は摂らないと…
そんな勝手な思いで、僕は駿に一声かけて、もう一度購買へと足を向けたんだ。
……あっ!残ってる……!
購買に残っていたのは、パクッと食べられる栄養クッキーだ。
これなら今からでもすぐに食べられるだろう…!と僕は考え、徐に一つ購入し、教室へと駆け戻ったんだ。
教室に戻り、すぐさま僕は山際くんの元へ向い「山際くん、良かったらこれ食べて?」とそっと…彼の机に置いてあげたその時だ…
彼の目線が外から、その栄養クッキーに向けられた…!こ、これは…!好感触…!?
そんな僕の気持ちとは裏腹に、またすぐに目線は外へと向けられてしまった。
ちぇっ…もうちょいだったのに…!
僕はちょっとムスッとしてしまったけれど、目線だけでも僕の物に向けてくれた事の方が断然嬉しかったのは事実なんだ。
「置いておくね?」
その言葉だけを残し、僕は自分の席へと戻っていったけれど、その一部始終を周りのみんなも見ているわけで…やっぱり周りにいい印象なんて与えられてないな…
そんな風にも感じたけれど、僕は諦めない…絶対に…そう何度も何度も、僕は心に言い聞かせていたんだ。
◇ ◇
──その日の放課後、今日は教室の掃除当番で僕は黙々と掃き掃除をしていた。
山際くんはもう帰ったようだし、駿も最後のインターハイに向けて、意気込んでバスケ部へ行ってしまった。
周りの掃除も終わり、残りの仕事はゴミを焼却炉まで持っていくだけだった。
今日の掃除当番は僕以外、全員女の子だったから見栄なんか張って「ゴミは僕が持っていくから大丈夫だよ!」とみんなに笑顔で告げ、そんな僕の言葉にみんなも「ありがとう!」と僕に一言残して、先に帰っていった。
さて、ゴミを捨てたら僕も帰ろう…!
ゴミ箱の袋を取り出し、縛ろうとしたその時…
僕は袋の中に入っていたある物に目が止まり、その瞬間…鼓動が一気に昂ったんだ。
「こ、これって…!!」
そう、そこに入っていたのは、僕が山際くんにあげた栄養クッキーの空き箱…中身も開けられて、空だけが捨てられていたんだ。
ちゃんと、食べてくれたんだ…
まだ彼と喋ったこともなくて、あんなにツンケンとしてくるくせに、僕があげたものを彼は口にしてくれた。
たったそれだけの行為が、今の僕には嬉しくて嬉しくて堪らなかった…
少しずつでも、きっと思いは届く…!
僕はそう信じながらゴミ袋をまとめ、焼却炉へと向かっていったんだ。
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