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「『雨音』と書いたら『アメオト』でしょ? なに言ってんの?」
「そっちこそなに言ってんの? だよ。『雨音』って書いたら『アマオト』って読むんだぜ。
「え? うそ!」
真由は雨に濡れるのも構わずカバンからスマホを取り出すとググった。
「え……、あらほんと」
俺はヤレヤレと肩をすくめた。
「真由のそういうところ、本当に呆れるぜ」
真由が俺を睨んだ。
「そういうところって、どういうところよ!」
真由より背の高い俺は、上投げのように手を伸ばし、その人差し指で真由のおでこをツンツンしながら言った。
「例えば、『月極駐車場』を『ゲッキョクチュウシャジョウ』って読んで、『ゲッキョク』グループが運営する駐車場だと思ってたりとかさ」
「む!」
「『浦島太郎』を『浦島・太郎』だと思っていたりさ」
「だってあれは歌で『むかし~むかし~浦島は~♪』ってあったから、てっきり姓が『浦島』だと思っちゃうじゃない。本当は『浦・島太郎』なんて誰も思わないよ」
「あと『輸出輸入』を『ユシュツユニュウ』って読んだりさ」
「それも、明治以前は『シュシュツシュニュウ』って読んでたかもしれないけどさ、今はすっかり『ユシュツユニュウ』で使われているからさ。むしろ『シュシュツシュニュウ』って打っても漢字変換されないしさ」
真由の悔しそうな顔にサディスティックな満足感を得た俺はうーんと伸びをした。
「まぁ、真由の場合は『アメオト』に想いを馳せる前に、一般常識を身に着けた方がいいよね。ニャハハハハ!」
と笑っている俺の顔面に真由のビンタが炸裂した。
ドシャ、と俺は水気をたっぷり含んだ砂浜の上に倒れ込んだ。
「うるせーんだよ! おめーも『水を得た魚』を『ミズヲエタサカナ』って読んでたじゃねえか! 本当は『ミズヲエタウオ』なんだよ! 『魚』という字を『サカナ』って読むのはお酒のアテにするときだけなんだよ!」
真由は怒って帰ってしまった。
降り注ぐ雨粒は、俺の顔に落ちてきてはペチペチとさっきまでとは違う雨音を鳴らした。
このペチペチという雨音が響く世界に、俺は『恋』という名前を付けた。
おわり
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