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砂浜に降る雨音は優しい音がする。
台風が温帯低気圧に変わったにせよ、大雨警報が出る中、恋人の真由が俺を砂浜まで引っ張ってきたのはこれを聞かせたかったようだ。
「アスファルトに降る雨はジャバジャバとうるさいだけでしょう?」
大雨のせいで荒れる海を見ながら真由は俺に呟いた。
激しく落ち散る雨粒は砂浜にボソボソと吸い込まれて、大雨なのに辺りは静かだった。
風は鳴いていたが、夏に蝉が鳴いても気にならないように、この世界を壊すことはなかった。
真由はまだ荒れる海を見ていた。
いや、真由はまぶたこそ開いていたが、その瞳はなにも見ていなかった。
ただボーっと瞳に海を映しているだけで、意識は砂浜の雨音が作り出す非日常に持って行かれているようだった。
俺も真由の心に寄り添うようにもっと真由のそばへダイブしたいと思った。
「この世界に名前を付けようか」
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