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夏ぎらい
「夏はいやだなあ」
「どうしてですか?」
「いろいろいやな面があるさ」
「たとえば?」
「まず暑い。虫に刺される。なにもしなくても汗が出る」
「冬だっておなじですよ。寒い。雪に滑ってコケる。なにもしなくてもブルブル震える」
「いやさの度合いがちがうよ、度合いが。夏は特別いやなんだ。心底いやなんだ」
「そうですか」
「そもそも、おまえは学生だろ。夏休みという特権がある。ひと月以上海だ山だと遊んで暮らせる。働いているおれは大変だぜ。汗を流し太陽に焼かれ、熱波に苛まれながら仕事をしなきゃならん。夏休みがある、それだから、若い奴は夏を擁護するんだ」
「季節を擁護しているつもりはないですけど……。ま、でもいいじゃないですか。いまは涼しい秋。嫌いな夏が過ぎ去って、気分がいいでしょう?」
「最悪な気分さ」
「え。なぜです?」
「なぜって?
来年の夏に一歩近づいたからさ」
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