ボスのつぶやき

1/1
前へ
/32ページ
次へ

ボスのつぶやき

 一瞬、倉庫の中を静寂が支配した。男なら誰しもわかる痛さだ。みんな、つぶされる恐怖に縮み上がる。   私の殺気は鬼ヤバだ。松山主水の二階堂平法の心の一方を超えているかも。蛇に睨まれたカエルのように金縛りになる者、気分が悪くなる者、背中に冷や汗を流す者、様々だ。 「ええい、何しとるんや。それでも狂天狗党か。黒頭巾、みんなでかかれば、怖くない。行け。」 ボスの妙竹林な檄に、メンバーが奮い立つ。用意してあった木刀、鉄パイプ、金属バットを手にする。さっきまで、泣きそうになったのに、可愛いウサギちゃんを見つけたハイエナのように残忍でエロい顔になっている。  かたや、私は楽しくてたまらない。道場の門下生相手の稽古ではできない術技を思う存分使える。 「どたま、かち割ったるわ。」 モヒカン頭が木刀を大きく振りかぶり、私に襲いかかった。まあ、様になっている。誰しも、私の頭がかち割れたと思ったであろう。  しかし、かち割れたのはモヒカン頭。私は、倉庫の固い床に脳天から投げ落とした。もちろん、私の右手にはモヒカン頭から奪った木刀が握られている。  何が起きたかわからない。魔法を見たかのように青ざめるメンバーの中で、ボスだけは、はっきりと私の術技が観えていた。 「無刀どり。お見事。」 そのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加