ボスの過去

1/1
前へ
/32ページ
次へ

ボスの過去

 私の興味津々の熱い眼差しに、ボスは即座に答えくれた。 「俺はよう、奈良県の柳生の里で、物心つく前から、死んだ爺さんに新陰流を仕込まれていた。いや、あれは虐待だな。食生活も厳しく管理され、テレビ、漫画、ゲームも禁止されていた。友達と、遊んだ記憶がない。  俺たちが山で修行をしている様子を垣間見た住人は、天狗様と崇め奉ったが、俺に言わせれば、爺さんは狂っている。この平和な時代に、尾張柳生への敵対心なんて、クソ喰らえだ。  まあ、爺さんが怖くて、嫌々修行は続けたが、三年前、心不全でぽっくり逝った日にゃ、俺は万歳三唱したぜ。  そして、俺は暴走族デビューして今に至るって訳だ。自分に才能がなく、息子の俺に嫌な役目を押し付けた親父は、俺に何も言えねえ。お袋も、同じだ。」 「なるほどね。ちょっびり、同情するわ。ところで、お名前を聞かせてくれません。」  私は、ある期待を持って、聞いてみた。 「よくぞ、聞いてくれました。柳生三厳。わかるだろう。あの柳生十兵衛三厳。爺さんがつけた。初孫にだぞ。狂ってやがる。」  奈良県の天才剣士、インターハイ三連覇を成し遂げた柳生三厳の名前は死んだ父上から聞いた記憶があった。 「私だって、似たようなものよ。円と書いて、まどかと読む。新陰流の極意なんだけど、学生時代、担任の先生にちゃんと読まれたことがない。みんな、えんと読む。何も知らない友達からは、お金持ちなの、お金が好きなの、将来、玉の輿に乗りたいのとか、さんざん言われたわ。」 「それ、わかるわ。おっと、アンタとはじっくり話したいところだが、どちらが強いか、勝負しようぜ。」  早く救急車を呼んでくれと恨めしそうな部下たちの眼差しに、三厳は勝負を急いだ。 「望むところよ。私もみっくんをぶちのめして、聞きたいことあるし。」 「言ってくれるぜ。俺も、まどかちゃんの下着の色を確かめたいしな。」  私たちは、木刀を持って、対峙した。  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加