移動手段を確保する

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移動手段を確保する

「ありがとうございます。お気をつけて。」 運転士さんは、6月とは言え、この御時世で日曜日でも、勢和多気のVISONからたった一人しかいない乗客の私にすこぶる愛想が良い。私も渾身の笑みで返したよ。  おそらく、運転士さんは、職場で自慢するに違いない。 さて、熊野市駅前で降りたんだけど、怖いくらい何にも無い。高層ビルも、コンビニもファーストフードもない。遊びに来たで訳なく、観光に来た訳でもないから、仕方ない。  それにしても、電線に止まったカラスがカア〜と鳴くのには、笑ってしまう。ハトならわかるが、田舎すぎる。  JR熊野市駅前のセンターで、門人が特別に手配してくれた250 c cのオフロードのバイクを借りることにした。現地での捜索には必需品だ。私は、特別にナビが取り付けられているバイクにまたがり、ヘルメットをかぶる。 「しかし、長かったなあ。名古屋から三時間半くらいか。」  最初の目的地の場所をナビで確認する。私だって予習してきたもんね。世界遺産熊野古道の名勝だ。  バイクに鍵を差しこみ、エンジンをかけ、アクセルをふかす。性能の良さを感じさせる。  ギアチェンジをして、私は、一気に走り出した。  やっぱ、自分で運転する方が断然楽しいし、私の性格に合っている。  あっと言う間に、牛丼屋の向こうに目的地が見えた。 「スゴー。確かに獅子に見えるわ。」  獅子巌。太平洋に向かって吠える巨大な獅子。海蝕現象、風蝕現象によって形成された自然景観であるなんてね。  平日の昼前にも関わらず、観光客がパシャ、パシャ、スマホで写真を撮っている。私も一応、獅子巌を背景に自撮りした。
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