狂った天狗とアイツ

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狂った天狗とアイツ

 漁協市場らしき場所には、人だまりができていた。怒りと諦めなど入り混じった気を感じる。私のバイクの軽快なエンジン音に鋭く反応する。ここは、慎重に行くべきだね。 「こんにちは。何かあったんですか。」 私は一番立場が上そうな初老の男に、声をかけた。一瞬で見極める。極めて重要なことである。 「いや、ただの喧嘩だ。よそ者には、関係ない。」  言葉とは裏腹に、視線が泳いでいる。他に人がいなければ、私の顔と身体をガン見するだろうよ。 「何言いやるん。組合長。ただの喧嘩じゃないやろ。これは、立派な暴力事件やろ。」  半分怒りに燃え、残り半分は私の気を引こうと、若い男が組合長にかみついた。  それまで沈黙していた老若男女が一斉に、しゃべり始める。私は、全身を耳にした。   まとめてみると、休みになると、この熊野灘周辺に、狂った天狗の集団がやってきて、一日中、好き勝手放題をやらかす。昼間のバーベキューはまだ許せる。真夜中の花火なら可愛いものの、バイクでレースを繰り広げるのはすこぶる危険で、安眠妨害極まりない。ゴミも散らかし放題。漁師だけでなく、他の住民も迷惑している。警察に通報してもまったく無駄。サイレンを鳴らすパトカーに喜んで、逃げ回る始末。  そこからが問題だ。ある若者が、たった一人で立ち向かった。大敷の綱の手入れをしていた漁師たちに、天狗たち絡んだからだ。  そう、アイツだ。私が探している男、兄弟子である。
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