乱れる心

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乱れる心

 私は信じられない思いであった。三年前、あの晩に謎を残して姿を消したアイツ。  その後、磯崎町にふらりと現れ、住み着き、大敷の仕事に就いていることなどは、正直、どうでも良い話しだ。  それより、何より、アイツがそこら辺の暴走族に負けたこと、救急車で運ばれるほどの怪我を負わされたことの方が、問題である。アイツが、暴走族などに負けるはずがない。  かって、天才美少女と誉れ高い私が兄弟子と呼んだ男だぞ。  私はホテルに戻り、部屋のベッドに寝そべり、天井を見ていた。海など見る気にもなれない。私の心が荒れた海である。  先程すれ違った救急車でアイツは運ばれたらしい。私の予感は嫌になるほど、当たったことになるな。  本当だったら、その紀南病院やらにバイクをかっ飛ばしたいところだが、今のご時世、家族でも面会は厳しいとか。しばらく検査入院することになるから、どうしようもない。  組合長さんには、アイツは家族に黙って失踪した。いとこの私が心配する家族に頼まれて、探しに来たと偽り、退院してきたら教えてもらえるように頼んでおいた。  居場所は突き止めたものの、私の心は乱れていた。アイツが負けるはずがない。  信じたくなかった。アイツの腕は私がよく知っている。今は亡き父上も、アイツの腕は認めていたはずだ。  三年前のあの晩に何が起こったのか。アイツはあの晩にどこかに傷を負ったのかもしれない。  やはり、アイツに直接会う前に、狂った天狗にご挨拶し、念入りに聞くとするか。  私の心の乱れは、ピタリと収まっていた。
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