とんかつ御膳とLINE

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とんかつ御膳とLINE

 しきりに鬼ヶ城観光を勧めた受付のお兄さんを横目にホテルのレストランで少し早めの夕食をとる。意外とメニューが豊富だが、矢場とん好きの私が選んだのは、とんかつ御膳(岩清水豚)だ。断じて、縁起をかついだ訳ではない。  田舎のホテルのレストランと軽くみていた私の予想を上回る美味しさだ。豚さんは、丁寧に管理された環境で大切に育てられたのに違いない。外側はカリッと中はふんわりジューシィに揚げられたとんかつにご飯がすすむくんだ。  満足した私は部屋に戻り、狂った天狗とのご対面に向けて、仮眠をとる。  夜中、枕元のLINEの着信音で一瞬で目を覚ます。寝ぼけるなどは、武術家の恥だ。  LINEの相手は、濱田くん、組合長に噛みついたあの若者だ。私に気があるのはミエミエだったので、組合長が今いち信用できないから、保険にLINE交換をしておいたのである。 「狂天狗党が現れました。😅」 「知らせてくれてありがとう。やはり、頼りになりますね。❣️今すぐ、向かいます。🛵」 「了解であります。お待ちしております。✋」  めったに使わないハートマークに舞い上がる若者の顔が想像できる。  私は鏡で念入りに化粧を整えて、戦いの準備をした。未知なる敵との対決に、心が弾むのは、武術家の性、サガである。
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