3人が本棚に入れています
本棚に追加
第十話
ノリノリな前川は、実際のところクールに仕事をこなすタイプの子だ。
しかし、隠れオタクであり我々と同じソーシャルゲーム『俺のカレシが一番尊い』通称『俺尊』のガチ勢で、レイヤー仲間の一人でもある。
「それで?コスプレの許可とかも貰ったの??」
いつも以上に目が輝いてるし、圧が強い。
「半ば強引だったけどね……私、制服エプロンだったし」
「「何その最高背徳感シチュ!!」」
陽子さんも葵も完全にハイテンションなハモリで反応した。
そりゃそうなるよね。普通に考えたらおかしいもん。
「それで、なんのコスプレさせるか決まってるの?」
いつもはクールな葵が落ち着きを取り戻してきた。
「そりゃ、俺尊の推しに決まってるじゃん!推しに膝枕されるとか垂涎ものだよ……グヘェ」
「沙織」
静かに私の名を呼ぶ葵。
「はい……」
少し盛り上がりすぎたかと俯く私。
「絶対達成するんだぞ……」
肩を軽く叩いた葵の顔を見上げると満面の笑みに加えサムズアップしていた。
「よっしゃこうなったら全力で仕上げるよ!」
「よ、陽子さん!?」
部屋は完全に旦那にコスプレさせ隊が結成されていた。
そうして1時間ほど経っただろうか。
旦那に着せる衣装のイメージがだんだんと固まってきた頃、部屋にノック音が響いた。
「大分盛り上がってるみたいね。で、今日締め切りのやつは終わってるんだよね?」
落ち着いた声で問いかけてきた彼女は、この部署の佐々木美鈴。引き締め役だ。
「もちろんやってない!」
オタクモードの葵は元気よく答えたが、美鈴が持っていた資料で頭にダイレクトアタックされていた。
「趣味全開なのはタスク終わらせてからでしょ?」
「「「はい……」」」
葵は頭を擦りながら舌を出している。
それを見た美鈴はもちろん制裁を加えて、皆が作業へと戻った。
静寂が訪れた部屋ではその後、3人の仕事がいつもの3倍捗った。
なんなら終業時刻までさらにコスプレの打ち合わせができるレベルで。
旦那に推しコス計画は順調に滑り出したのであった。
最初のコメントを投稿しよう!