第八話

1/1
前へ
/12ページ
次へ

第八話

 翌朝。  テーブルの上には、タイトルだけが書かれた一枚のメモがあった。  《旦那のコスプレ候補》  あぁ、俺はコスプレして膝枕するのね。  そういえばあいつ元コスプレイヤーだもんな。いや、最近してないだけで興味が薄れた訳ではない?  ……ってまた変なシチュエーションになるだろこれ。  なんとなく鉛筆で下書きした形跡あるし、どう見たって廃課金してるソシャゲの推しキャラの名前だし……  いつになるかわからんが、大学以来のコスプレを自宅ですることになるのかもしれん。  あぁ怖い。コスプレなんて家でするか?  ……いやすまん。俺がヨメにさせてたわ。JKコス。  そう考えるとこの夫婦結構やばい気がする。  これまでちょっとずつではあるが距離が開いてレッツ離婚タイム!になってもおかしい感じだったけど、若い頃の思い出というか(へき)というかそういうのが溜まりに溜まって(こじ)らせてしまったヤバい夫婦に進化してしまっている。  よかった。今日はヨメの方が会議のせいで出勤早くて。  多分弁当とメモ間違えたな。そんなことありえないと思うでしょ?これが実際あるんだわ。天然エピソード。  ……コホン。  無駄話はいいんだよ。  時計を見ると、ボチボチ出社の準備を整えなければならない時間であった。 「行くかぁ」  誰もいないリビングに一人呟き、着替えを始めた。  私は、いつもより早く家を出た。  急いだからと言って、何かあるわけではない。 「私が執事の男装して、旦那が推しのコスをする……グヘェ」  ニヤケが止まらないシチュエーションですなこりゃ。 「普段は私が執事キャラ選択してプレイしてるけど、完全に寄せるのはちょっと違うかもなぁ」  妄想が捗りますなぁ。朝なのに。  旦那はこういうテンションだったのだろうか?  まぁそんなことは今は置いておいて。 「楽しみだなぁ。コス合わせで膝枕……」  いつもより空いている電車の中でニヤケが止まらない私であった。  しかし、出社してメモにまとめようとしたところで、早朝に書き残したメモをリビングに忘れた挙句、旦那の分の弁当箱まで持って来てしまったことに気がついた。  即謝罪のメッセージを旦那に送信して、顔が熱くなった始業前となってしまった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加