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第九話
朝礼も終わり、早速仕事に取り掛かろうとしたところ、社長が私に声をかけてきた。
「沙織さん。なんかいいコトあった?」
いやなんでうちの社長わかるん?
「谷津田社長、どうしてそう思ったんですか?」
「堅苦しいから社長はやめてっていつも言ってるじゃない。陽子って呼んでよ」
うちの社長はどうも浮いた話に敏感らしい。
そもそも、私が勤める会社は『谷津田呉服株式会社』といい、その二代目が陽子さん。お父さんが始めた会社で、衣料品関連の業務をしている。今は会長職としてオブザーバー的な立ち位置にいるけど、「若い世代向けの洋服を作っている以上、若い世代が運営した方がいいだろう?」という谷津田会長の一声で陽子さんが社長になったという訳。
正しく仕事できますよ!ってタイプで、金髪ショートがよく似合う。取引先は陽子さんと話すこと目的で取引してくれてるんじゃないかと思うくらい。広告塔として一役買ってくれているのも事実である。
……話が逸れた。本題に戻ろう。
「じゃあ陽子さん。どうしてそう思ったんですか?理由教えてください。」
「顔よ。顔に全部書いてある。私に幸せが待ってますって」
どんな顔してたんだ私。
「まぁ浮かれるのもほどほどにしておいてね。久しぶりなのかもしれないけど、沙織さんは服飾デザイン部の管理者兼デザイナーなんですから。シャキッとしてもらわないと示しが付きませんからね?」
そう。こんな感じの私だが、一応管理者をやらせてもらってる。
まぁこれもある意味縁故みたいな成り行きではあるのだが……
「実は浮かれていた顔の件でちょっとご相談がありまして……」
「なになに??」
いやグイグイ来すぎです陽子さん。
そして、ことの一旦を陽子さんに話した。反応は……
「何それ尊い。めっちゃ幸せ夫婦やん。はぁ早く結婚したい……」
確かに33歳って適齢期ではあるよね。別に結婚するだけが幸せってわけではないと思うけどね……
「それで、旦那にコスプレさせるからアドバイスが欲しいと」
「そういうことです。レイヤー仲間としてお手伝いいただけたらと思いまして」
「もちろん。その代わりに合わせの写真見せてね!あ、膝枕されてるところは大丈夫だから!!」
膝枕してるところなんか見せるかぁあああああ!!そんな羞恥プレイ無理ですって……
「え、何?朝からコスプレ談義してるの??」
あぁ、めんどくさいの入ってきた……
二人きだと思っていた服飾デザイン部に部下の前川葵が入ってきた。
「あぁ葵ちゃんいいところに!実はね!」
ノリノリの陽子さんは事の一部を葵に話した。
「沙織さん!!なんでレイヤー仲間の私を仲間外れにするんですか???」
そんな気はなかったんだって……
始業して時はそれほど経っていないはずなのに、既に疲労感が襲ってきた……
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