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第一話
いつもの日常。
2人はリビングのソファーに寝転がりながら、テレビで動画配信サービスでアニメを見ている。
俺はテーブルの上に置いた冷蔵庫から出して時間が経過した微温いビールを少し口に含んだ。
ヨメはその横でスマホを見ながら時折テレビに映るアニメを横目で見ている。
これは我々夫婦の毎日ルーティーンである。
夕食を食べ終わってからお互いに風呂に入るまでの約1時間はゆっくり過ごすことにしている。会話は少ないが、これも良い関係であるためには必要不可欠なものだ。
ヨメとは出会って6年、付き合って4年、結婚と同時に同棲を始めて3年になる。まぁいわゆるマンネリ化しすぎない為に自分たちで設けたルールだ。
とは言え、お互いに社会人としても脂の乗ったこの時期に子供だなんだとかを考えておくべきだろう。だが暇もなく、こんなルーティーンは設けずにそういう時間に当てるべきであるとは思う。
「今日はなんかあった?」
相手の表情を見るわけでもなく、ただただ普通のことを聞く俺。
「仕事はいつも通り。限定ガチャは爆死した。投資額は聞かないで」
「小遣いの範疇越えなければ何も言わんよ」
「……。まぁそうね」
あ、またやりましたわうちのヨメ。
際限なく推しが出るまで課金する中毒症状出たのね。
流石に哀れみの表情でヨメの方に顔を向けると、やらかしたときに右側の眉尻を掻くクセが出ていた。
「推しは出たのか?」
流れで課金額を聞き出しておかないと流石に生活費に響く。生計を共にする夫婦である以上これは仕方がない。
「……天井に届きました。いや今回は最推しだから!やらなきゃいけない義務感があって」
「それは俺より推しなのか?」
ヨメの目線がテレビ台の下まで降りる。
少しのため息をついて、携帯の画面に目線が戻る。
この言葉の結果俺のストレート勝ちで試合は結したかに思われた。
しかし、この九回裏ツーアウトノーヒットノーランによる完全に気持ちいい勝利とはいかないのがこの試合だった。
「三次元と二次元じゃ違うから。それは線引きしてるから」
ほぉ。そりゃどうも。
決め球がアウトローギリギリで外れてしまったか。
「そうは言っても三次元でも俺よりカッコいいやつはいるだろ?」
今度こそ決めに行く。
それに、流石に2か月連続の天井は黙っていられない。こっちとしても応戦体制を採る。
「アイドルとか俳優ならね。でもあなたと出会ってからはときめくほどカッコいいとか惚れたみたいな人とは出会ってない」
真顔でサラッとそんなこと言うなよ。惚れてまうやろ。いや惚れたから結婚したんだけど。マウンドでぶっ倒れるぞ?
それでも頑なに携帯から目線を外そうとはしないヨメ。
「そ、そうか。なら膝枕してくれない?」
え?
いや何言ってるん俺?
唐突に自分の口から出た言葉にこれが事実だと認識したくない。
飲酒しているとはいえ、これはマズい。
ビビりながらヨメの方に目を向ける。
真顔だ。いや、固まっているだけなのか?
「確かに三次元の推しとなるとあなただけど……」
ようやく携帯を置いたヨメ。ブルーライトに照らされていて認識しにくかった、いやしようとしなかったんだろうが彼女の顔は若干赤くなっている。
「ごめん。変なこと言った。」
謎の沈黙がリビングを包む。
反省の弁を述べても、なぜ自分がそんな発言をしたのかが全くわからない。
いくらマンネリ化を防ぐためのルールがあっても、変化のない日常があったのは否めない。
無論、ヨメへの愛は薄れてはいない。
仕事から帰ってきても家事をこなしてくれている姿も、推し事に興じている姿も付き合っている時から変わらない。いや、むしろその姿が愛おしさを常に認識させてくれているのかもしれない。
脳裏に浮かぶ彼女の姿。いや、隣にもいるんだけど、幸せそうにしてるヨメが横にいてくれるだけでいいんだよな……。
考え事をしてどれくらい経っただろうか。
沈黙を破ったのはヨメの一言だった。
「……いいよ?」
「え?いいってなにが?」
もう自分で何を言ったかすら忘れるレベルで時間が経っていた。いや、忘却の彼方へ送り込んでなかったことにしたかったのかもしれない。
「膝枕。してもいいよ?」
これは抑えたのか?それとも逆転サヨナラホームランを打たれたのか?
「いや、これはその……。言い間違いといかなんというか……」
「じゃあしなくてもいいのね?」
「いやしてください。」
なぜか膝枕をという行為を望んでしまった俺。
膝に乗るというより尻にしかれてしまうのか?
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