FDR

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 7月21日、夏休み2日目の夜、良太は晩ごはんを終えて2階の自分の部屋でのんびりしていた。良太は中学生。午後6時まで野球の練習をしていてくたくただ。明日は学校も練習も休み。家でのんびり過ごそう。  もうすぐ午後7時だ。大好きなアイドルのラジオが始まる。とても楽しみだ。今日も色々大変だったけど、これを聞いて元気を出そう。 「さて、今日もラジオを聞こうっと」  良太はラジオをつけた。いつも通りのコマーシャルが聞こえる。いつも通りの平凡な日々。何もないまま終わるだろう。 「楽しみだなー」  だが、午後7時になると同時に、変な音が聞こえてきた。その音は、旅客機の客室の音のようだ。良太は首をかしげた。今日は好きなアイドルのラジオなのに、何だろう。故障だろうか? 「何だこの音は?」  しばらく聞いていると、大きな音がして、警報音が聞こえる。旅客機に何かがあったようだ。それと共に、スチュワーデスの慌てる声が聞こえている。やはり、旅客機に何かがあったようだ。 「酸素マスクをつけてください、ベルトを締めてください」  室内にアナウンスが聞こえる。どうやら機関室からの声のようだ。 「ただいま、緊急降下中です。マスクをつけてください」  やがて、自動アナウンスの声もしてきた。とんでもない緊急事態のようだ。何の声だろう。旅客機の中だとはわかるんだが。どうしてこんなのが流れているんだろう。 「そっちの状態はどうですか?」 「操縦不能です」  どうやら管制塔と通信しているようだ。操縦不能だったら、どうすればいいんだろう。想像できない。 「名古屋に着陸しますか?」 「成田に引き返します」  良太は真剣にそのラジオを聞いていた。どうにか助かってほしい。だが、操縦不能なのにどう変えればいいんだろうか? 全く想像できない。 「ジャパンエアー153、ジャパンエアー153、成田にコンタクトしますか?」  だが、次の瞬間、機長と思われる声が聞こえた。機長も焦っているようだ。 「ライトターン! 山にぶつかるぞ!」  ブザーが鳴り続いている。そして、騒ぎ声、悲鳴が聞こえている。かなり客室も混乱しているようだ。  その間にも、客室はさらに混乱してきた。父や母などの家族の声を叫ぶ人もいる。もう死を覚悟しているんだろうか? 「プルアップ! プルアップ!」  機関室からの声だ。空港以外で高度が下降しているので警告が流れているようだ。良太は息を飲んだ。この旅客機は墜落するんだろうか? 墜落すると多くの死者が出る。どれぐらいの死者が出るんだろう。 「あーもうだめだ!」  その声とともに、何かにぶつかる音がした。そして、機関室の悲鳴が聞こえてくる。そして、ラジオは止まった。一体何だろう。 「あれ? あれ?」  良太はラジカセを叩いた。だが、何も起きない。大好きなアイドルのラジオを聞きたかったのに、何だろう。良太はしばらく呆然となった。まさかこんな事になるとは。  その夜、良太はベッドに横になりながらあのラジオから流れる音声の事を考えた。一体あれは何だろう。その後、お風呂に入った時も気になった。その後、バラエティ番組を見た時も、歯を磨いている時も気になった。  良太は変な夢を見た。良太は旅客機に乗っている。旅客機の中は慌てている。午後7時頃に聞いたラジオを思い出した。あのラジオの夢だろうか? あのラジオを聞いたらその飛行機事故の夢を見るんだろうか? 「えっ、何?」 「落ちていく!」  中の乗客は混乱している。中には遺書を書いている人もいる。夢だとわかっているのに良太も汗をかいている。 「まさか、墜落?」 「そんなのやだ!」  親子が焦っている。子どもは泣いている。もう死ぬ事を覚悟しているようだ。 「もう飛行機なんて乗りたくない!」  子どもたちが泣き叫んでいる。乗る前はきっとわくわくしていただろう。こんなに怖い事が起こると思っていなかっただろう。そして、これが帰らぬ旅になるかもしれないと思っていなかっただろう。 「まさか、これはあのラジオの声の夢?」  良太が叫んだその時、墜落する直前に流れた警告が流れた。そして、何かにぶつかるような音がする。やはり、午後7時ぐらいに聞いたあの声の夢だろう。 「ゴゴゴゴゴ・・・」  その音共に、旅客機が崩れていく。そして、客室内にガラスの破片が飛び散る。それは良太にも刺さり、良太は血まみれになる。 「うわああああ!」  気が付くと、手に血が付いている。そして、顔中が血まみれだ。果たしてこれは夢だろうか? 夢でこんなにいたいと感じるとは。 「もう9時よ。早く起きなさい」  良太は母の声で目が覚めた。もう朝だ。やはりあれは夢だったようだ。良太はほっとした。 「あっ、ごめん」  良太はベッドから起き、1階のダイニングに向かった。いつも通りの朝だ。昨夜の夢が嘘のようだ。  1階には父がいる。父は心配そうな表情だ。何があったんだろう。 「どうしたの? かなり騒いでたよ」  実は良太の叫び声は、隣の両親の寝室でも聞こえていた。どんな悪夢にうなされていたんだろう。1晩中気になっていた。 「何でもないよ」  良太は笑顔でごまかした。夢は夢であって、どうってことない。  と、母があるニュースに見入っている。それは飛行機の墜落事故だ。どうやら過去の事故で、それからちょうど何年か経ったニュースのようだ。その航空機の様子は、昨日の夢に似ている。一体何だろう。昨日の夢と関わりがあるんだろうか? 「こんな事故があったのか」  良太もそのニュースを食い入るように見ている。まるでその墜落事故を体験した人々のように。母はその様子をおかしそうに見ている。良太はどうしてそのニュースに興味を持っているんだろうか? 「うん。って、どうしたの?」 「な、何でもないよ・・・」  良太は焦っている。その夢のことを話したくない。こんな夢を見たんだと聞いて、不安にさせたくない。  と、母は良太の手を見て、何かに気付いた。母は驚いている。良太は首をかしげた。 「り、良太! 何この手?」  良太は両手を見た。すると、手に血が付いている。ただ、体からは出血していない。まさか、あの時の夢の時の血だろうか? 「えっ!?」  まさか、あの時の夢に出てきた血が残っているんだろうか? いや、そんなわけない。あれは夢だ。現実じゃない。  良太はふと、テレビを見た。事故当時の映像が流れている。その中には、自分にそっくりな中学生ぐらいの青年が倒れている。まさか、自分だろうか? 良太は血まみれの手を見た。あのラジオを聞いたら、呪いをかけられたんだろうか?
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