2 科学者アレン

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 「でしょ? そのためにも子供は必要なんだよ。環境問題がなんとかなったとしても、引き継いでくれる者がいなければ意味がないんだ。無茶を言っているんじゃない。本当に解決できる希望がなければ、僕だって勧めないよ。でも僕は信じているし自信がある。絶対に人類を存続させる、って」  「そこまで言えるのは頼もしいし、そうであってほしいと思うよ」  リョウがちらりとアレンを見ながら言った。  「僕はこんな光景を夢見ているんだ」遠くの空を見ながらアレンが続ける。「ノア計画を終えて帰還してくる人達が2000年後の地球を踏みしめた時のことさ。その頃、これまでの生活様式とはがらりと変わっているだろうけど、存続できた人類が『おかえりなさい』と出迎えるのさ。それは、僕や君達の子孫だよ。どう? いいと思わないかい?」  リオナもリョウもフッと息を漏らした。確かに素晴らしい夢だ。それが現実になってほしいと思う。  しかし、窓の外は荒涼としていた。この環境汚染を、なんとかするのは難しい……。  今、ヨコハマからオダワラ・シティまで、アレンが開発した薬剤と機器を輸送しているところだった。  汚染の影響で脅威となっているものの一つ『破滅の雨』へ対処するためだ。  近年頻繁に発生する、汚染物質を多量に含んだ雲。そこから降る赤茶けた雨は、すぐに洗い流さないと人を数分で死に至らしめる。  それを即座に無効化する物――中和して普通の雨に変える薬剤が開発された。汚染物質の塊である赤茶けた雲は、通常よりも重いためかなり下に発生する。なので、専用の装置を使えば薬剤入りカプセルを撃ち込むことが可能だった。  その装置が今、全国に配備されるところなのだが、ヨコハマからオダワラまで輸送する任を受けたのがリオナとリョウだった。そして、装置の開発者であり、今後オダワラの研究所に赴任するアレンのことも警護しながら移動している。  破滅思想に傾倒するテロリスト達が横行していた。彼らはどこからか様々な情報を得る。この装置や、破滅を防ごうとする科学者であるアレンを狙う可能性が高い。先ほど襲ってきたのもそうだった。またいつ現れるかわからない。  リオナは険しい表情になり、窓の外を見据えた。
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