赤玉

2/27
前へ
/128ページ
次へ
 吸い込むと肺はその紫煙に満たされ、何とも言えないくつろいだ気分になった。  それは、よく晴れた夏の日の朝。  何度も着て伸びてしまっているヨレヨレのノースリーブシャツ一枚にステテコを履いて、晴れ渡った青空にゆっくりと流れる雲を、ぼんやりと見つめながら航はタバコを吸った。  22世紀も間近だった。  航がいるのは、廃れた昔のタバコ加工工場で、今では動かなくなり、埃を被ったタバコの生産ラインにセットされたままになっている、巨大なロール状のタバコの巻紙から、少しずつ切り分けた巻紙を使い、それに器用に手慣れた手付きで、自分で栽培したタバコの葉を干して刻んだものを、次々と巻いて行った。  この時代、どこから発信された情報を信じてなのか、タバコを吸うと必ず癌になると大半の世の中の人々は信じているみたいだが、航はもう10年以上吸っているが、苦しくも何ともなく、健康そのものだ。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加