麻雀青春物語【カラスたちの戯れ】史上最強雀士コテツ編

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1話 ◉卓上の名探偵  ステージ中央に一台の麻雀卓がありそこにスポットライトが当てられていた。  すると、ドン!という音とともに入場曲『戦場の足跡』が流れた。今夜の『プラスアルファリーグ』で戦う選手の入場である。 『さあ、今夜もやってまいりました! 熱闘!プラスアルファリーグの時間です! まず最初の入場は『プラトンズ』。ファイナルシーズンへの進出を決定させる一戦になりそうなこの天王山とも言える今夜の戦いに起用された選手はーーー「財前ーーー香織ーーー!!」』  今日の番組司会者は七田プロだ。声は小さめだが熱くなり盛り上がるトークを素でやってくれる、それはこの麻雀という競技を心から好きで楽しんでいるからこそ。七田は当番組の名物司会者である。 ワアアア!!パチパチパチパチ!! 「あ、どうも。どうもありがとう。頑張ります。ありがとうございます」 『彼女の強さはハートの強さなんですよね。ブレない芯がしっかりあってダメージを与えても効いている気がしないんですよ』と解説の『永世女王位シオリ』が言う。 『シオリさんでも苦戦しましたか』 『苦戦なんてもんじゃないです。いつもやっとの思いで勝たせてもらってました。私が彼女に勝ってきたのは本当にただの偶然』  永世女王位にそこまで言わせる現役最強の女とも呼ばれるプロ。それが財前香織である。 『さあ、対するはーー財前香織とは姉妹でありながら敵対することになった姉。財前真実プロ率いるチーム!『オダマキ』の入場です! オダマキから今夜の戦いに出場するのはーー? 「チームリーダー! 財前ーーー真実ーーー!」』 ワアアア!!パチパチパチパチ!! 「どうもーー! みなさーん! 今夜もオダマキを応援してね!」 『シオリプロ。姉の財前真実プロはどういう印象ですか?』 『はい、彼女はね、しつこいです。いまあなたのアガリ番じゃないでしょ? と思う場面でも関係なく手を出してきてあの手この手でアガリを取ります。とにかく、手数が多い。しかもそれでいて綺麗なんです』 『綺麗?』 『ええ、みっともない手は作らないといいますか。常に芸術的。あの子はアートの天才ですよ』 『なるほど、アーティスト真実ということですか。今夜はどんな芸術を披露してくれるのか! 姉妹対決が楽しみです!』 『さあ、3チーム目は常勝チーム『ミネルヴァ彩』!。前回優勝チームです! こちらから今夜の決戦に出場するのはーー師団新人王で一気にその存在を示した男! 「丸山ーー圭一郎ーー!」』 ワアアア!パチパチパチパチ!! 「ッス! よろしくお願いしますっ!」 『丸山圭一郎プロは精度の高い読みで相手のスキをついてくる麻雀視力の高い選手です。見えている情報量が多いんですね』 『情報解析に長けているという印象は私も感じていました。現役引退したら解説者に欲しいですね。そしたら私は今度こそ隠居するんで』 『またまたー、シオリプロはずっとここに来て働いてください』 『イヤよ。今日だって本当は休みたかったんだけど林くん(メイン解説者)が熱出したから来たんだし。私はサブで充分です』 『相変わらずですね。さて、最後の入場は優勝回数最多チーム! 卓上の名探偵と呼ばれる超推理力の持ち主「南上虎徹」率いる最強メンツ! 『ν(ニュー)ライジン』! そこから今夜の戦いに出てきたのはーーー当番組の主人公! いや! 彼こそが麻雀界の主人公! 名探偵(ディテクティブ)「南上ーーー虎徹ーーー!!」』 ウワアアアア!!パチパチパチパチパチパチ!! 「よろしくお願いします」 『南上虎徹プロについては誰よりも詳しい人がここにいますから今日の打牌は解説が出来そうですね』 『やめて下さい。私だって彼の戦術が全てわかるわけじゃないんです。あれは解説者泣かせですよ。本当に』  選手たちは場決めを終わらせると卓に着いた。 『それでは、始めて下さい!』 「「よろしくお願いします!」」  これは後の麻雀界に大きな感動を残していった若者たちの青春物語であるーー ーーーーー ーーーーーー ーーーーーーー 「コテツくんは数の概念を完全に理解してます」  小学1年生の1学期にコテツの母が最初に先生から言われた言葉である。それを言われた母は誇らしかったのか、その事をコテツに報告してきた。  コテツは遊んでばかりの子だったが算数はできた。特に図形は得意で、解法を習う前から自分なりの方法で答えに辿り着いたりすることもあって先生を驚かせた。  小学4年生になり図書委員になったコテツは委員の仕事は忙しくなかったのでほとんどの時間は読書をしていた。その時出会ったのが推理小説だった。ホームズのように一を聞いて十を知るような探偵に憧れて推理ごっこに夢中になる。  中学生になる頃には少年探偵団を作って学校で起こる小さな事件を推理した。  だが、当然の事ながらそんな都合良くポンポンと事件など起きたりしない。平和な中学生活が終わろうとする3年生の冬休みに運命の出会いをすることになる。    「コテツって麻雀出来る?」  初めての麻雀の誘いだった。全く分からない無知な状態だったので。 「いや、知らない」と答えると。 「そっかー、でも大丈夫だよ。むしろコテツには向いてる遊びだと思うな~」とのこと。 「???」 (どういうことかな)と思いながらも興味はあったので参加。誘ってくれた友人から遊び方を教えてもらう事にした。 「とりあえず同じの2枚揃えればいいよ。それが7つで和了(アガリ)。あとは19字牌(じはい)全部集めたら和了(アガリ)」 「じはい?」じはいと言われても何のことか分からないからそれが何なのか聞いた。とりあえずその2種類の和了(アガリ)だけ説明されてゲーム開始。あとはやりながら覚えることになった。無茶苦茶である。    あっ、出来た!それで完成。 二二四四五五⑤⑤⑨⑨発発中 中ロン  コテツはさっそくチートイツを完成させた。友人が「チートイツドラ2で4ハンだから満貫(マンガン)だ」と教えてくれる。点棒を言われるまま貰う。どらにってなんだろう?  それ、アガリ。 三三四四八八2244556 6ロン  友人が「今回は断么(タンヤオ)になってるからザンクだね」と言う。 (たんやおってなんだ) (後でわかることだが、この点数はふたつとも間違っている。最初のが6400点で2回目のが3200点が正解)  まだよく分からないけど28000点の2着で終わった。それが最初の麻雀だった。  なんかまだ分からないけど楽しい!  それからは時間があれば麻雀をやり集まらない時は1人で麻雀の勉強をした。それでルールを覚えた頃にやっと友人が最初に言った(向いてる遊び)と言われたその意味を理解した。 (…そうか、このゲームは推理ゲームなんだ。 リーチという事件が起きた時に捨て牌という現場を見てプロファイリングするということか。なるほど、そういうことなら向いている!)  コテツには特殊な能力があった。音楽を記憶する能力だ。1回聴いたらメロディーを記憶し2回聴いたら歌詞も記憶してしまう。  そんな能力があるのだが、だからどうだと言うんだと自分では思っていた。高校に入って最初に校歌を練習していた時に覚えたら後ろを向いて座る事と言われ2回目で座った時は学年主任が寄ってきたが3番まで完全に記憶していることを確認し狼狽(ろうばい)させた。  カラオケでのレパートリーは豊富で困らないというだけの才能。かと思っていたのだが、この力が麻雀に役立つことになる。  相手が何を欲しくて何がいらないかを推測するヒントに手出しという情報がある。  手出しとは今引いた牌を収納して手の内の牌を出したということ。その情報を知っていると何が危険か分かりやすくなるのだが、はっきり言ってそれを全て見ることはちょっと難しい。ついつい目を離してしまう時があるものだ。  しかし、コテツは歌記憶能力があるので打牌音(だはいおん)に耳を傾けているだけでいい。 タン..タン...タン のリズムを丸ごと記憶して少し間隔があいた時に切った牌をヒントに読む。  手出しだろうとツモ切りだろうと考えた牌はヒント牌である。  その考えた牌は打牌音を音楽として捉えることで記憶可能なためこの才能はおおいに役立った。見てなくても聴いてればいい。  その能力のおかげか、はたまた勉強熱心なためか高校を卒業する頃にはコテツはいっぱしの雀士になっていた。特に読みに関しては人読み手順読み雰囲気読みと優れた能力を発揮していた。それ故にスレスレの所を読み切りすり抜ける麻雀を得意とした。 「この辺が危ないのかな?じゃあもう(カン)だ」 「なんでわかるの!」 「音で」と言った具合である。  そんな彼は友人達にこう呼ばれ…もとい呼ばせていた。 『卓上の名探偵』と。
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