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2話
◉棋士になれなかった男
マサルは家庭環境に恵まれていなかった。
幼少期に両親が離婚していて母と姉との3人家族で質素な暮らしをしていた。
趣味と言えば将棋で。いつも仲良し3人組で将棋を指していた。マサルには将棋の実力があったが、3人の中では1番強いのはシンイチ君で、マサルは2番手か3番手の実力だった。
マサルの学力は高くて、中学に入学してからも難なく学力テストはこなしていったが経済的な理由から高校進学は諦めて働く事を選んだ。
本当のことを言えばシンイチ君と一緒に奨励会入会試験を受けたかったが生活するので精一杯なのですぐにでも給料が欲しくて年齢を偽り『富士』という名の雀荘で働いた。
少しでも家計の助けにならねばと思い食事は店で出る従業員食を2回とることで節約し、給料の全てを丸ごと家に入れた。
必死で働いた。生活のため、家族のために、だが…。
マサルの母はいつの間にか消えた。
姉とマサルの2人だけが残された。捨てられた事に気付くまではしばらくかかった。そんなはずはない。苦しくても慰めあって支え合って生きていたはずだ。少しの間家をあけただけだと信じたかった。しかし、一向に母は帰らず月日は流れた。
母には男がいた。その男が何者かとか全く知らないので探しようが無かったが1つだけ直感していた。
(あの男と消えたのだろう)
そんな予感が姉弟にはあった。探し出すために動きたくても自分も姉も仕事があるのでそんな余裕はまるでなかった。
その頃からマサルの麻雀が急成長し始める。
(負けてはいけない。なんとしても勝つしかない)
元々学力の高いマサルが本気の本気で麻雀を勉強したので素人レベルだった所からあっという間に勝てるようになる。
月日は流れて数年後。マサルは雀荘の社長に真面目さと実力を買われ責任者に抜擢された。母とはあれきり連絡も取れないままだがもう食うに困るような生活はしていなかった。姉と2人で問題なく暮らしていた所に2号店の話。
「マサルに富士2号店を任せたい」と言われる。
その頃シンイチ君はプロ棋士になっていて羨ましい気持ちがずっとあったが今回の件で自分は麻雀の道に進んで良かったな。とやっと思えた。
(棋士にはなれなかったが自分は元々シンイチ君より強くはない。1番になれない道を行くより自分にはこれが良かったのだ)と、納得して生きることがついにできたのであった。
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