麻雀青春物語【カラスたちの戯れ】史上最強雀士コテツ編

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4話 ◉4人目の男  お父さんは普通のサラリーマンで夜6時に帰ってくる。お母さんはスーパーのレジのパートタイマーとして働いていてごく普通の家庭に育った。  特別なことはなく、どこにでも当たり前にある平凡な暮らしをしていたと思う。  妹が1人いて兄としてしっかりしないとという気持ちはあったから普通に進学して普通に就職を何となくだけど目標にしてた。  特別とは程遠い普通の人。それが自分。 そう自己紹介するのは4人目の男アキラ。  なにが4人目かと言えば麻雀であった。アキラは人が揃わない時によく4人目として麻雀に誘われた。人数合わせ。仕方ないからアキラ呼ぼうかという具合だ。  嫌われてもいないし好かれてもいないからとアキラは解釈していた。事実そういう所はあったがそればかりが理由ではなかった。  アキラは麻雀が強かったのだ。抜きん出るようなことは無かったがアキラが負けることもなかった。安定感が抜群でそれ故に強いからなるべく呼びたくないというのが友人たちの本音だったがこの頃のアキラはまだ自分が強いなんてこれっぽっちも思ってはいない。  しかし、何度も負けを回避し続けて次第に気付いていく。  もしかして自分に向いてる遊びなのではないだろうか。  アキラは本格麻雀ゲームに手を出してみた。平均順位などのデータを見て自分の成績を冷静に見つめてみようと思ったのだ。プレイヤーネームは『よにんめ』 数ヶ月後 キリのいい打数になったので一旦ここで区切りをつけることにした。 500戦して平均順位2.27。それはプロでもなかなか出せない数字だった。  自信のついたアキラはフリーデビューをしてみようと思い立つ。  何年も貯金したままにしていたお年玉をおろして。いざ、フリーへ。  アキラは0.5と1.0のツーレートの店に入った。デビューには0.5くらいがいいと思っての選択だった。  初めての卓は下家にその店のマネージャー対面は田中角栄(たなかかくえい)風の男、上家はスキンヘッドという並びだった。初めてのフリー麻雀という緊張からアキラの手が震える。震えからうまく牌を扱えなくてポロポロ溢す。恥ずかしさと焦りで思うように打てていない。   マネージャーが何か鳴いていたけどそれを見る余裕すらなく自分の手で手一杯だった。とりあえず要らない牌を捨てていこうとシンプルな思考で『北』を打ち出す。同巡、マネージャーはツモ切り。田中角栄さんもツモ切り。スキンヘッドさんが手出しで『(ぺー)』とした。すると 「ロン」 234南南南西西西北(東東東)(ロン)  マネージャーの手が倒れた。なんと小四喜(ショースーシー)だ。  ん??北ってどういうことだ?今さっきアキラも北を切ったところだが。  するとマネージャーがスキンヘッドさんに一言。 「すみませんね中村さん。だってこんな若い子からアガれないでしょう?新規の若者から役満は当たれないよ」  物凄い衝撃だった。役満を見逃せる。そんな人間がいるなんて。  アキラはこれがきっかけで雀荘店員に憧れて雀荘のアルバイトを始めることになる。アキラの人生がいま初めて普通から離れた方向を向いた。この日が冒険の始まりだった。
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