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そこにいたのは化け物だった。
黒い毛むくじゃらの大きな体に、ギョロリとした目玉がひとつ。体の中央は深く裂け、真っ白な牙が覗いている。
「これはこれは……とても美味しそうで……」
思わず後退りした。
そもそもなぜこんな目に遭っているのか?
わたしはただ鏡を見ていただけで……
不意に背中が何かに触れる。
それは大きな鏡だった。
鏡越しに、大きな口が迫ってくるのが見える。耐え切れず視線を逸らすと、鏡の中の自分と目が合った。
鏡に写った私は、小さく微笑んでいた。
(了)
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