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すると、そこに――
かつて、ハナコちゃんがしゃがんでいた場所の近くに、
あの薄汚れたスニーカーがお供えしてあった。
ちょこんと並んだスニーカーは、後ろに、マジックで、右にオダマキ 左にハナコ と書いてある。
ぷっ、とわたしは笑った。
ハナコちゃんはきっともう逃げない。
でも、ほんとうに辛いときは、お地蔵さまが、そっとこの靴をハナコちゃんの枕元に持っていってくれそうな気がした。
この身代わりおしろい地蔵さまが――。
「でもそうか。
身代わり地蔵さまだったのか……。
実は、祈った人の代わりに綺麗になるお地蔵さまだったりして」
「なんだそりゃ」
と言う芹沢くんと、虫の鳴くあぜ道を歩いて帰る。
「だって、拝んでも、ぜんぜん綺麗になってないから」
かなりの間を置いて、芹沢くんが言った。
「……そんなこともないんじゃないか」
「え? なんか言った?」
とわたしは振り向き、きき返す。
ちょうど通ったバイクの音で、よく聞き取れなかったし。
芹沢くんがそんなこと言うとも思えなかったからだ。
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