うしろの舞妓さん

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 ふむふむ。なるほど。  木箱に入っているおしろいをこのお地蔵さまに塗りながら、拝むと綺麗になれるのね。  わたしは木箱を開け、黒い丸いケースに入ったおしろいを取り出した。  開けると、もあっとおしろいが舞い上がり、つん、としたおしろい独特の匂いがした。  化粧水は欲しいけど、お化粧品のこういう匂いは苦手だな、と思いながら、その場にしゃがんで、刷毛(はけ)でお地蔵さまの顔を白く塗る。 「お地蔵さま、ママが化粧水を買ってくれて、綺麗になれますように」  わたしは目を閉じると、手を叩いて、お地蔵さまを拝んだ。  すると、お地蔵さまの後ろから笑い声が聞こえてきた。  えっ?  お地蔵様が笑ってる?  目を開けると、お地蔵さまの祠の後ろに、舞妓さんが立っていた。  真っ白に塗られた肌。  紅く塗られた目元と口元。  その紅い唇の色と似た、はなやかな着物。  ゆらゆら揺れて、たれ下がる黄色いお花のかんざし。  絵や写真で見た舞妓さん、そっくりだ。  だけど、その舞妓さんは、なぜか足元だけ、少し汚れたスニーカーを履いていた。
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