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6 エピローグ
どれくらい気を失っていたのか、わからない。
目を覚ますと、洞窟の入り口付近にいた。わずかにそちらから明かりが射している。霞のかかったような頭を振って、気力を振り絞って立ち上がった。
入り口から這い出る。思わず目をつむった。強烈な光が網膜を貫いた。いままで感じたことのない、波長の短いスペクトルであった。
外は雨が降っていなかった。見渡す限り、一滴の水も見当たらない。乾ききった砂の世界。
見上げると、またもや光が目を射る。この世界では全天を覆う雲がないため、太陽の直射日光が容赦なく降り注いでいるらしい。慣れるまで相当時間がかかりそうだ。当分は見上げないことにした。
「ここはどこなんだ」思わず独りごちた。
わたしは地下へ降りていったはずである。ということは、〈底抜け世界〉のさらに下層なのだろうか。
わらかない。しかし、歩いていればいずれわかるだろう。
猛烈な暑さに辟易しながらも、わたしは歩を進める。ゆらめく蜃気楼の向こうに、部族のキャラバンが隊列を組んで行軍しているのが見えた。人がいるのだ。ということは、水もあるだろう。町もあるだろう。
だが、雨は降るのだろうか。この〈乾いた世界〉に雨は降るのだろうか。
わたしはおそらく、〈底抜け世界〉という監獄から脱出したのだろう。
けれどもわたしは、無性に絶え間なく聞いていた雨音が懐かしくなっている自分に気づく。
〈乾いた世界〉でも雨が降ればいい。そう思った。
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