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「お姉ちゃん!」
私を呼ぶ声と、バタバタと廊下を走る足音が、ぼんやりする頭を覚醒に導く。
「お姉ちゃん! 遅刻するよ!」
大きな音を立てたドアから自室に駆け込んできた美憂の姿を見て、一気に目が覚めた。
「えっ? 遅刻? 今何時?」
「7時!」
枕元のスマホを手に取り、時刻を確認する。時刻は7時6分になっていた。
「ごめん! 朝ご飯……」
「いいから、早く着替えなよ!」
それだけを言い残し、来た時以上の慌ただしさで出て行った。
家事のほとんどを美憂にやってもらうのが申し訳なくて、朝ご飯は作ると言ったのは私だ。慣れない早起きにやっと慣れたと思った頃の、この失態。
「ごめんね」
「いいから、早く食べなよ。トーストとコーヒーしかないけど」
身支度を整えダイニングに顔を出すと同時に、トースターがチンと鳴った。トーストとコーヒーを流し込むように食べていると、父が入ってきた。
「おはよう」
「お父さん、ごめん。今朝、寝坊して……」
「いいよいいよ。朝飯くらい、自分で用意できるから」
そう言いながら、父の分のトーストとコーヒーを用意してくれたのは美憂で、父はそれを受け取るだけ。
「ありがとう、美憂。美奈は、毎日お母さんを見舞ってくれて、ありがとな」
父が向かいの席に座って言った。
『お母さん』の名前を聞いて、フラッシュバックする映像。母にすがって泣く美憂の姿に、先生を怒鳴りつける父の姿。
——あれは、昨日の出来事?
「ね……ねえ……」
——あれからどうなったの? お母さんはどうなったの? なんで、普通にご飯食べてるの?
聞かなきゃいけないことはたくさんあるのに、喉が詰まって声が出ない。
「お姉ちゃん。急がないと、電車に遅れるよ」
自分の分のトーストとコーヒーを持って、美憂が隣に座る。
最近やっと慣れた3人だけの食卓。意識して明るく振る舞うようになって、会話も増えた。母が安心してこの家に帰って来られるように、この家を3人で守ると決めたんだ。
——ああ、そっか。あれは夢だ。ただの悪い夢。
ほっと息を吐き、残りのトーストを口に詰め込む。
「ごめん。洗ってる時間なくて……」
「そんなのいいから」
食べ終えた食器を流しに置いて謝ると、美憂は笑って言ってくれた。
「明日は、お母さんに会いに行くから! お母さんにそう言っておいて」
「もちろん、お父さんも行くぞ!」
明日は土曜日。なかなか病院に顔を出せない2人が、母に会える日。
「分かってる。ちゃんとお母さんに伝えとく。いってきます!」
そう言って、2人に手を振り家を出た。
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