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お滝はおむらに着物を脱がされ、手ぬぐいで髪を拭かれている間に、先程の出来事を思い出していたが、やれ女子は雨の中はしゃぐものではない、やれずぶ濡れになるのはみっともないと、小言を言われていたが、夕食の話になってしまうと、小言も回想も、彼方へ放り投げてしまった。
「そうや! 七夕の節句やさかい、ぞろぞろや! 嬉しいわあ!」
「今日はお団子もありますよって、御所さん(当主のこと。ここでは康隆を指す)も言うてはったわ」
「ほんまに?! お団子の方が好きやわ! あとはおかちんも食べたいなあ!」
おむらはそれを聞いてぷっと吹き出した。
「おかちんはお正月に召し上がりましたやろ? しかもぎょうさん召し上がってからに」
やれやれとおむらがため息をつくが、息巻いたお滝は意に介さない。
「そやかて美味なもんは毎日食べても飽きまへん!」
「……そないに言う人に限って、真っ先に飽きはるんやけどなあ」
「そんなわけあらしまへん!」
漸う雨音が強くなる中、お滝はそれに負けじと大きな声を出したところで、外の様子をはたと眺める。こうこうと庭の木が振り回されていると見紛うほど揺れ動いているし、雨音も滝が近くにあるように烈しい音になっている。
「何や、えらい雨になってからに……野分みたいやわ……」
「ほんまや。さっきまで白雨程度のもんやったのに……」
二人のその呟きは、ざあざあという音に溶けて消えてしまった。
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