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『待ち人』
灰色の空を仰いで……
そこから飛び込んでくる夥しいほどのくすんだ光の粒を、全身で受け止める。
時折遠退くその雨音が、実は、雨がやんでいるのではなく、自分の意識が遠退くことで聞こえなくなっているだけなのだと気付く。
現に、頬に滴る幾粒もの強い感覚は、その手を緩めることなく容赦なく身も心も打ちのめす。
なぜ、ここから動けずに居るのだろう。
どうして、ここであの人を待ち続けているのだろう。
あの人が来るなんて……そんな保証はどこにもないのに。
冷たい音色を奏でる雨音が、一気に変わった。
風情をかき消すようなポツポツという滑稽な音は、槍のような雨の粒を跳ね返し、遮断した。
びしょ濡れの身体をさらうように、力強く抱き締められ、心が一気に流れ出す。
冷えきった頬は、大きな手のぬくもりによって感覚を取り戻し、その熱い視線によって更に温度を増した。
雨音は依然、激しいまま。
それは外観のすべてをも遮断し、二人の小さな空間を際立たせる。
小さな囁きに耳を寄せる。
その言葉に視線を向けてその存在が視界いっぱいになった瞬間、すべてを奪われた。
立ちのぼる気持ちがあなたを求め、
心の中いっぱいに、熱い思いがほとばしった。
『待ち人』 彩川カオルコ
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