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高校2年生ー友達
【友達】
それは、2年の最初のころ、予備校の授業が終わり、バイクで帰ろうと、裏通りの、本当はバイクを止めてはいけない所にこっそりバイクを止めているんだけれど、そこに行くと、金髪の18-20歳くらいの見るからに危ない男3人に、見覚えのある同じ学校の制服(標準服)を着た有名な問題児がボコられているところに遭遇してしまった。
最初は、知らん顔して急いでバイクに乗って、その場から去ろうと思ってバイクにまたがって、エンジンをかけたら、その危ない男の内の1人に見つかって、そいつが俺の方を見て怒鳴りながらこっちに向って歩いてきた。
えっ?なんで?……あっ、あいつと同じ制服(標準服)仲間と思われた?
まずい。
その2人は問題児(俺の同級生)をボコにしてるし、もう1人は俺に向ってどなりながら歩いてくる。
クソと思い、でもこのままではまずいから、半分ヤケになって、バイクをそのままその男に向って走りだし、目の前でリヤスライドさせてリアで跳ねてやった(父の特訓のおかげ、お父さんありがとう)。
時速にして10km/h程度(だったと思う)でスライドさせてぶつけたので死ぬことはないが、それでもバイクはその男を思いっきり後ろに倒れさせ(骨折したかも)、そいつがうずくまっていたので、そのままバイクでボコってる2人に向って走って行くと、その2人はこの様子を見ていたらしく、顔を引きつらせ同級生から離れた。
俺は大声で『武村!!早く乗れ!』そう言って、同級生の傍まで行くと、武村はよたよたしながら後ろに乗ったので、「しっかりつかまって」と言って急いでバイクを走らせ、そのまま走り去った。
レース用バイクに後付けで保全部品をつけたおかげで、ライトがOFFにできる。
ナンバーを見られないため無灯火のまま、さらに、タンデム用のヘルメットなんて用意していなかったので、武村はノーヘル(警察につかまったらアウト、でもあんな奴らに捕まるわけにはいかない、ナンバーも見られたくない)。
だから人通りの少ない裏通りばかりを走って遠回りで約35分、何とか高校の傍の公園までたどり着き、武村を下ろして、ベンチに座り、自動販売機でコーヒーを買って、武村に渡した。
武村は俺の事を知らないようで、「お前、同じ高校だよな」
「あ~」こういう奴にはなめられないような言葉使いをしなきゃ後が怖い。
「バイク乗ってるのか」
「あ~」
「何年?」
「2年」
「タメか」
「あ~」・・・・・・・思わず『ハイ』とか『うん』って言いそうになる。
「名前は」
「高谷」
「知らないな~」・・・・・・・1年の時同じクラスだったけど話したことあるけど~
「あまり目立たないから」
「そうか」
「俺は、」「知ってる、武村だろ」
「ああ?」
「だって、有名だから」
「そっか・・・・・・バイク良かったっけ」
「いや、禁止されてる」
「いいのか」
「いや、ダメだと思う」
「そうだよな」
「あ~、うん」
「黙っててやるよ」
「ありがと」
「貸しな」
「えっ?」
「だから、黙っててやるって」
「あ、あ、ありがと」
あれ?俺、助けてやったんだけどーーー俺に貸し?
「じゃあな」そう言って武村が帰って行った。
俺はそのまま、もやもやした気分でバイクにまたがり家に帰った。
なんだったんだろう、助けたのに俺が彼に貸しを作ったんじゃないのか? 疑問のまま。
【友達—学校で】
昨日、あんな事があった次の日、学校に行くと、顔にキズバンを張りまくって、唇が歪んでいる武村を見かけた。
一瞬目があったので、逸らそうとしたら
「おい、高谷、ちょっと来いや」
えーーっ、何でーー、昨日のお礼だよね?
それ以外は何もしてないので、ちょっと目があっただけなのにーーー。
一緒にいた友達は、
「大丈夫か? 先生呼んでこようか?」と言われたが
「うん、大丈夫」(武村がバイクの事ばらしたらまずいし)
もし何かやばそうだったら、逃げれば良い、問題があったら、俺もバイクの事がばれるけど間違いなく武村が停学だから大丈夫と言って、武村について行った。
こういう時は屋上とか、校舎裏に連れて行かれて昨日のことは黙っていろとか言われるのかな、と思いながらついていくと、昼以外はひっそりしている食堂の前に来て、自動販売機でコーヒーパックを買って、俺にくれた。
「昨日のコーヒーの分、これでチャラな」
「あー」
「じゃあな」と言って武村が戻って行った。
何だったんだろう、でも、少なくとも昨日の事で、目をつけられたわけではない事は明白だったので、それ以上は近づかないようにしようと思い、もらったコーヒーパックを持って教室に戻った。
その時一緒にいた友達は、俺が教室に戻るとすぐに俺のところにやってきて
「何があった? 何かされたのか? 大丈夫か?」
と聞かれたので、
「昨日貸したお金、返してくれた」
と言ってごまかして、
「それでこれ買った」 とコーヒーパックを見せ、にやッと笑ったら、
「なんだそりゃ」とあきれたような顔そして席に戻って行った。
【村井さん】
そのやり取りを聞いてた隣の席の女子は
「ねえ何があったの?さっき見てたけど武村君に呼ばれてたでしょ」
「うん、昨日、お金貸したのを返してもらって、これ買った」
「なーんだ、そう」
「えっ、僕の事、心配してくれたの?」
「なわけないじゃん」
そう言って興味がないような素振りで、他の女子と話だして、その場は終わった。
また次の日も武村がクラスのドアの入り口に来て俺を呼ぶ。
隣の女子が
「ほら、武村君が呼んでるよ」
「はいはい」
そう言って武村君の後ろをしょぼしょぼとついて行くと、昨日と同じ
また、誰もいない食堂の前で自動販売機でコーヒーパックを買って俺にくれた。
「えっ、何?」
「おとといの」
「それ、昨日もらったよ」
「利息だよ」
「・・・・・・ありがとう」
「おう」そう言って、去って行った。
よくわからないまま、コーヒーパックを持って席に戻ると、隣の席の女子が
「どうしたの?」
「一昨日貸したお金の利息、って言ってこれもらった」と言って コーヒーパックを見せたら
「ふ~ん」
と言って、すぐに反対を向いて他の子と話し始めていた。
この隣の席の女子、村井さんは身長が170近くあって、超美人でスタイル抜群、いわゆる陽キャのトップカーストグループの中心人物で、彼氏が3年野球部の主将。
最初、席が隣になった時は、朝、挨拶をする程度だったけど、俺はいつもの通り、教科書を見せたり、先生の質問の答えを手伝ったりして話をするようになってから、趣味の話とか、彼氏の話とか聞いたり、雑談している内に、思ったより素直な子で、トップカーストなのに、人を見下すような事もせず、・・・・・・なのでいつのまにか普通に話すようになっていた。
とは言え、彼女は普段はトップカーストグループと一緒にいるし、授業が終わると野球部のマネージャーとして彼氏の所に行くから、少ししか話さないけれど。
それから、何度か武村が俺を呼びだし、その度にコーヒーパックをおごってくれて
その度に村井さんに聞かれて、コーヒーパックを持って席に戻ると、村井さんが
「武村君に気に入られたわね」
と言って、にっこり笑ってから反対を向いて他の子と話し始めていた。
その時は何?トップカーストの人って何考えてるかわからない、と思っていた。
ある時、移動教室で、教室を出ようとしたところ、村井さんに一緒に行こうと呼び止められ、廊下を歩きながら彼女の話を聞いた。
「私ね、武村君と小学校と中学校も一緒なの。中学までは、すごいまじめで良い子だったけど、高校に入ってすぐに、親が離婚したのよ。お母さんが弟を連れて家を出て、彼は父親のところに残ったんだけど、「母親が自分じゃなくて弟を選んだ」って言ってね、それからあんな風になったの、武村建設って聞いたことある?地元じゃ結構大きいんだけど、彼、あそこの跡取りでね、父親が女グセが悪くて、それが原因で離婚したらしくて、だから本当は自分も母親と一緒にあの家を出たかったみたい。」
「そうなんだ」
「うん、武村君って本当は良い人なんだよ」
「ふ~ん」
「だから、高谷君だから、武村君と友達になったのかな~って思ってね」
「ふ~ん」
「君は、ふ~ん、しか言わないね~」
「すみません」
「はは、いいね、その感じ」
「ねえ、なんで年下扱いなの? 同じ歳だよね」
「そうね、でも、ほら、背の高さも変わらないし、君ちょっとかわいいし」
「背って、村井さん、身長どれくらいあるの?」
「169cm、まだ伸びるよ」
「俺、174cmだから俺の方が高いよ」
「そう?」
「―――あーーそっか、彼氏は?」
「180cmかな?」
「あのね、そりゃあ、彼氏に比べれば低いだろうし、彼氏より1歳年下だけど、村井さんより背は高いし、村井さんとは同じ歳だから、その年下を見るような扱いはやめてよ」
「はいはい・・‥‥」
何か言いたげな感じがしていたけど移動教室についたので話はそれで終わり、授業を受け、自分の教室に戻って いつもどおり。
彼女はトップカースト連中に呼ばれ雑談してから野球部へ向って走って行った。
なんで村井さんは俺に武村の事をこんなに詳しく教えてくれたんだろう、親しくもない人には言わない方が良いような内容なのに、と思いながら家に帰った。
【武村を呼ぶ】
武村とのかかわりは、あの予備校の帰りにボコられているのを助けた事だけ、それだけで俺を気にったのか?
疑問に思ったけど、それを直接聞けるほど仲が良いわけではないし、
相変わらず、あの雰囲気は・・・・・・
でも、村井さんから聞いた話だと、本当は真面目な奴なのに家庭の事情であんな風になったけど、なんだかんだ言って、バイクの事は誰にも言ってないようだし、俺にコーヒーパックをくれるって事はちゃんとお礼をする人間なんだ。
きっと悪い奴じゃない、本当、村井さんの言う通り良い奴なんだろう。
何故か俺にこうやって絡んでくるんだから、友達の少ない俺、バイクの事もあるし、それなら俺もあいつに絡んでみるか。
そう思って、帰りのHRが終わってすぐ鞄もそのまま、武村の教室に行って、武村に話しかけた。
「武村、これから時間ある?」
「あ? ああ」
「ちょっと、バクドナルドに行かない?」
「ああ」
「鞄取ってくるから待ってて」
「ああ」
その返事を聞いて、すぐに自分の教室に戻りリュックを取って、武村の所に行き、一緒に下校した。
下駄箱で靴を履き替え、校舎を出て2人で歩いていると、引き攣った顔で俺達2人を見ながら後ずさりしている連中が多かった。
バクドナルドまで、2人とも無言、まあ男同士でペラペラ話すのもおかしいかと、それに相手はあの武村だからなおさら。
ちなみに武村は手ぶら、俺はいつでもバイクに乗れるよう学校もリュック。
途中で、武村の友達数人の集団(一応進学校にもいる数少ない危ないので有名な連中)に会った。
俺をにらんでから武村に声を掛けてきたけど、「用事がある」って言って、武村は相手にしないで、そのまま2人でバクドナルドに入った。
ちょっとお腹がすいていたから、テリヤキセットを注文したら武村も同じものを注文して、武村が2人分出したので、席についてから自分の分を出そうとすると「いいよ、この前の分」
「えっ?あれは食堂の自販で返してもらったから」
「その利息」
「・・・・・・じゃあ、ごちそうさま」
そんなに執拗に割り勘のこだわるのも雰囲気が悪くなるし、武村んち、金持ちだし、って思い、お礼を言って、2人無言でバーガーを食べた。
食べ終わって、コーラを飲み、いもを食べながら話した。
「村井さんって幼馴染なんだ」
「ああ」
「すごいよね、あんな美人が幼馴染なんて」
「ああ、でも俺の好みじゃないし、あいつも他に彼氏いるし、そんな感じだよ」
「へ~」
「そうだよ」
「村井さんから、武村の事聞いたよ」
「何が」
「家の事、両親の事、離婚の事、弟の事、武村が中学まで真面目だった事」
「あの野郎」
「いいじゃん、同じ中学の連中は知ってるんだろ」
「・・・・・・」
「いいよな~、将来は武村建設の社長だろ~、俺なんか親は普通のサラリーマンだから全部自分でやらなきゃいけないんだ、だから今から予備校行って、少しでも良い大学に行かなきゃって思ってるんだ」
沈黙の後、武村が、
「なんねーよ、あんなクソ会社の社長なんか」
「えっ、なんで?」
「そんなこと、どーでもいいだろ」
「父親の事?」
「かんけーねーだろ」
「まあ関係ないって言えば関係ないけど、あーやってボコられてるとこ見ると、助けなきゃいけないじゃん、めんどくさいけど、だからやっぱ関係あるよ」
「別に助けなくていいんだよ、おせっかいなんだよ」
「そうはいかないよ、だって、バイク、見つかったら俺がやばいから」
「・・・そうだな、バイク、チクられたら、お前アウトだもんな」
「そうだよ」
「チクんないからいいだろ、それで」
「そうはいかないよ、もし事件になったら、俺が目撃者とかになっちゃうだろ、そうしたらバイクのこともばれるから、やっぱ関係あるよ」
「・・・・めっどくせ」 武村の顔が歪んでいた。
【武村に語る】
俺はなるべく素のまま、自然に思う通りに話した。
それが癇に障るなら、それ以降は俺に絡んでこないだろうし、平気なら、俺も友達になっても良いかなってちょっと思ったから。
「武村がそうなったのって、父親の女グセと母親が弟つれて出て行ったから、なんだろ?」
「・・・うっせ・・・・・・」武村はうつむいて、小さい声でつぶやくように言った。
「俺が勝手に思ってる事なんだけど、今、母親と連絡してる?」
「・・・・・・」
「親父さんが許せないんだろ?」
「・・・・・・」
「思うんだけど、武村が会社継いで、乗っ取っちゃって父親を追い出して、母親と弟を呼び戻せばいいんじゃない、 って何年かかるかわからないけど」
「・・・・・・」
「だから、ちゃんと母親と弟とは繋がっておいて、その事伝えてさー、弟の進学とかも一緒に考えたり、お金も援助したりしてさー楽させてあげなよ」
「・・・・・・」
「母親だって、武村の事考えて置いて行ったんだと思うんだよね、大人ってそういう事何も言わないで行動するからさー ちゃんと話合った方がいいと思うよ、武村、今のままだったらお前が1人落ちぶれていくだけだし、誰も守れないよ」
「・・・・・・」
「関係ないけど、俺んとこもそう、バイクの免許も、今乗ってるバイクも、父親が勝手に自分で、克己にはこれが一番合ってる、とか言って、俺の意向はいっさい聞かないでいつの間にかバイクが家に来てるんだよ、俺が母親を説得しようと思ってたら、おふくろとおやじが勝手に話進めていつのまにかバイクに乗って良いとか、買うとか、勝手に了解事項になってるし、俺の思ってること全部無視して勝手に行動するんだよ。まあ、バイクと親の離婚って全然次元が違うかもしれないけど」
「・・・・・・」
そのまま話を続けた。
「俺の中学の時の話なんだけど、中学1年の時に俺の前の席の奴がすぐに学校休むんだよ、体育や美術の時は必ず保健室だし、そういうやつだから友達もいないし、見た目はおとなしそうな普通の奴なんだけど。武村みたいな奴じゃないよ。
でそいつが学校に来た時に、ノート貸そうか?て言ったんだけど、いらないって言うんだ、頭いいのかなって思ったんだけど、テストの成績優秀者には名前がなかったんだよね、でもまあ時々だけど話しかけてたんだけど。
ある時、帰りにバクドナルドに一緒に行かないかって誘われれて、行ったんだよね、今日みたいにセットを頼んだら、そいつも、同じの、って言って、一緒に食べてたら、そいつが話始めたんだよ・・・」
「俺、障害者なんだ、弱視っていうやつ、今視力は0.01しかないんだ」
「じゃあメガネかければ?」って聞いたら
「メガネかけても視力は変わらないんだ、それが弱視っていう障害、小学生のころからだんだん視力が落ちてきて、メガネかけてもほとんど変わらないんだ。親と一緒に色々な病院に行って検査してもらったんだけど、それで、自分は障害者なんだってわかって、本当は中学からそういう方の学校に行く予定だったんだけど、ダメでもともと皆と同じ学校に行ってみたいって親に頼んで、ダメだったらそっちの学校に移るからっていう事で、この学校に来てるんだ、だから体育や美術は受けられないから保健室に行くんだ。
朝起きて目の調子が良い時は学校に行くけど、ダメな時もあるから・・・・・・だんだ悪くなってるんだ、きっともっと悪くなると思う・・・・・・」
って話されて、中学1年だから、そういう話を聞いてビックリしてね、まあでも、それ以外は普通の感じだから、それ聞いてからも、そいつが学校に来た時は会話するようになってね」
「なんだ、それ、俺とその障害者がなんだって言うんだよ」
「いや、違うよ、後まで聞いてくれよ」
「・・・・・・」
「でね、ある時、そいつが友達を紹介するからバクドに一緒に来てほしいって言って、一緒に行ったんだよ、そうしたら、同じ弱視の友達っていうのがいてね、その友達は白い杖を持っていた。
その時は障害者っていうのが身近にいなかったし、でも友達っていうから、普通に一緒にバーガー食べながら雑談してたら、その友達が色々話だしてね、その話が全然分からなくって、でも今思うとすごいんだよ、こういう言い方って偏見かもしれないんだけど、そういう障害を持ってる人って一生その障害を持って生きていくわけだから、人生についてすごい考えてるんだ。」
コーラを一口飲んで、武村の顔を見たら一応聞いている風だったので、続ける。
「その時は何言ってるか全然わからなかったんだけど、今は少しわかる」
武村の顔をみながらそのまま続ける。
「その友達の友達がね、人生に目的があって、それを達成するのに理不尽な障害がある時、2つの考えと行動があるって 2人の哲学者の名前を言っていた、忘れちゃったけど。
2つとも正しいし、それぞれに従って行動している人達は普通にいる。
その1つは、それは理不尽だから今すぐ障害を取り除くために一生懸命行動する。
もう1つは、確実にその障害を排除するため、努力してその障害を取り除く力を身に着けて、それからその障害を排除する、それができるまでは耐えて我慢する。
自分が思うには、今すぐ行動するっていうのは、一番正しいと思う。
でも僕は、今の社会においては力のない者がすぐに行動してその障害を排除する事ができるような障害はそもそも障害ではなく、ただの問題の解決にすぎない、と思った。
障害っていうのは、今の自分ではすぐに解決できないから障害なんだ、だから自分はもう1つの方の方法を取る、君は?って聞いてきたんだ。
中学1年の俺には何言ってるか全然わからなかったから、答えられなかった。
でもすごいとも思った。それ以降そんな事はすっかり忘れてた。
でも今、自分が予備校に行って、少しでも良い大学に行こうとすることって、この考えに似てるなって思った。
いろんな大企業の就活の話で、『大学名にはこだわらない、個人の能力をもって採用する』とかよく聞くんだけど、ある大学生が、実際に会社説明会にWEBで申しこんだら満席だった、って高校時代の友達にグチって、その友達がそれを聞いてから試しに申し込んでみたら空席ありだった、って話。
この話、結構多くて、実際には大学名を入力した時点で満席か空席か判断されるって。
もっとすごい話で、ある大学生は申し込んだら空席だったんで、その説明会を予約したら、次に週に突然その会社の人で同じ大学のOBだ、っていう人から電話がかかってきて、会社の説明をしたいから会わないかって言われたんだ、まだスーツ買ってないって言ったら、普通の恰好で良いよ、ってそれで会いに行ったらその人、人事でもないのに、初めて会ったのに晩御飯ご馳走になって、インターンの予約も決められていて、できれば説明会の前に入社の意思を聞きたい、OKなら内定を出すからって言われた話で、これ本当に俺の従兄がそうだったんだ。
だから、俺もそういう障壁を取り除くため、少しでも良い大学に行かなきゃって。
親にもそう言われた。
父親は一応OO商事なんだけど、同じように分けだてなく募集しているけど、実際の新入社員はほとんど△◇大学以上なんだって、だから俺も今から予備校に通ってるんだ。」
「だから、武村も・・・」
「ああ・・・わかったよ・・・」
「うん」
「その友達って今でも会うのか?」
「いや、そいつ中学2年の時はいなかった、先生に聞いたら、そっちの学校に転校したんだって、それ以来1度も会ってない」
「・・・・・・そっか・・・・・・」
あの怖い武村がほとんど何も言わず、俺が一方的に話をして、でも武村はその話を聞いてくれた感じで、そのまま2人帰った。
なんとかしなきゃ、と思っても、結局1人で一方的に話しだけで、武村は何も言わず、いいのかなと思ったけど そのまま別れた。
【次の日の武村 -夏季講習を申し込む】
次の日、学校に行っても、今までどおり、武村も変わらず怖いまま、それからもときどき呼ばれて、なぜかコーヒーパックをおごってくれる。
村井さんと席は離れたけど、その度に、そのトップカーストグループの中にいるのにわざわざ俺の方にやって来て
「武村君と仲いいんだ」ってにっこりして戻って行く。
そうこうした夏休み1か月前、武村がいつものように、俺を呼んで、学食前の自動販売機の前に来て
「お前、予備校の夏季講習とかに行くのか?」
「うん」
「まだ申し込めるか?」
「武村も行く?」
「・・・ああ・・・」
「まだ間に合うと思うよ、申し込む?」
「そっか、お前、今日暇か?」
「まあ、今日は予備校ないし、中間テストの勉強くらいだから」
「じゃあ、帰りにバクド、な」
「・・・うん・・・」
「じゃあ」そう言っていつのように1人で戻って行った。
帰りのHRが終わると、武村が俺の教室に来て、俺を呼ぶ。クラスの皆はギョとした顔で武村と俺を見るけれど、関わりたくないのか、何もなかったように、しらん顔。
村井さんだけがニコニコして俺に手を振って野球部の方に行った。
俺は急いで鞄=リュックを持って、武村のところに行き2人でバクドに向った。
この前と同じようにセットを頼んで、この前と同じように武村が全部おごってくれて、無言でバーガーを食べ、コーラを飲みながらイモを食べ始めると、武村がボソボソ話始めた。
「この前は、ありがとな」
「ん?」
「お前の中学の時の友達の話、あの話調べたんだけど、かなり有名な哲学者の話らしい、お前の言う通りかもしれない」俺はじーっと武村の話を聞く。
「俺、逃げていたんだと思う。あれからお袋に電話してみた。
お袋がすごい喜んでくれて・・・・・会社のっとって、クソ親父を放り出して、お袋と弟を呼び戻そうと思う。だから、俺も大学に行こうと思う」
「そうなんだ、じゃあどのコースにする? 国立理系、私立理系?」
「はあ?」
「だって、建設会社だろ」
「あのな、会社の経営をするんだから、設計じゃダメだろ、経営、商学、経済とか法学とかだろう」
「そっか、じゃあ俺と同じ?俺、私立文系コースだけど」
「なんで私立なんだ? 国立は考えなかったのか?」
「いや~、共通と2次の科目数を考えたらちょっと大変かな~って、俺、国語には自信あるけど、数学あんまり得意じゃないし」
「じゃあ一緒だな」
「ふ~ん、じゃあ武村も俺と同じ私立文系コースだね、でも厳しいコースだよ、1部3年生コースに紛れ込むから」
「おお」
武村も同じ “一応進学校” に試験を受けて合格しているわけだから、いくらワルになったとしても、ちゃんと考えればしっかり頭はまわるので、そういう話を武村がした時、最初は驚いたけれど、普通に納得、安心した(やっぱり根はまじめなんだ)。
それから、明日予備校に行くから、受付で申し込みについて聞いて、パンフレットもらってくると言って、別れた。
予備校に行った次の日の夕方、武村と一緒にバクドにいる。
昨日と同じように帰り際に村井さんがにっこり手を振ってくれた・・・・
「これ、パンフ、申し込み書も一緒、WEBで登録すれば間に合うって受付の人が言ってた」そう言ってA4サイズの封筒を渡した。
「・・・・・」
「受験科目は基本3科目、英語と国語と社会、高田大学の政治経済は他に数学も必須で、帝王大学は国語の代わりに論文、武村はどうする?」
「お前は何に申し込んだ?」
「俺、数学苦手だから政治経済はあきらめたけど、高田大学には行きたいし、帝王大学も受けようと思うから、英語、国語、日本史と論文を受けるつもり」
「じゃあ、俺も同じだ 」
「えっ、 同じ? 地歴は日本史でいいの?」
「ああ」
「英語も3つあるんだ、長長文読解、文法、英作文、国語も現代文と古文・漢文があるんだ。
この長長文と論文は3年のコースですごく難しくて、きっと全然わかんないと思う 」
「お前と同じにするから、何に申し込んだか教えろよ」
「うん、わかった」そう言って 俺が申し込んだ 講習項目にシャーペンで丸を付けた。
武村はそれを持って、バクドを出て、その場で別れた。
武村はその日のうちにWEBで登録し、次の日、俺に予備校までバイクに乗せろと言ってきたので、本当は俺のバイクはタンデムは不向きで、不安定でイヤだから、今日だけ、と言って武村を乗せて予備校に行った。
俺はそのまま予備校の授業に出て、武村は申し込みの手続きをして電車で帰った。
それから何度も武村の脚に使われたんだけど・・・
【定期試験】
それから1週間後の前期試験のシーズン、これが終われば、解答用紙が帰ってきて夏休み。
定期試験については、俺はこの時すでに私立文系と決めていたので、関係ない科目は最低限、赤点=補修を取らない程度の勉強しかしない。
どうせ成績優秀者にはなれなから行きたい大学の学校推薦・・・は無理だし、
他に推薦で行ける大学じゃあ、希望する大学にはとうてい及ばない。
だから普通に一般入試で受験する。
それと、できれば高校生活、少しは遊びたい。
だから受験に関係する科目は一生懸命勉強するが、他の科目は授業はちゃんと聞くけど、それ以外は、点さえとらなきゃOKと割り切っていた。
学校の成績優秀者は全科目の合計点で決まる。
だから、俺はいつも真中よりちょっと下、いやもっと下でどちらかというと底辺に近い、だけど国語と英語だけの点数はトップクラス、学年トップの奴に点数を聞いたら、国語は俺の方が良かったし、英語も3点差だった。
2年にはなぜか日本史がなくて、1年と3年に受ける。
だから総合ではいつも下の1/3以下のグループ。
もし、今日本史の試験があったなら、絶対トップの自信はあるけど、ないから・・・
平均よりちょっと上の連中で、普通に話をする友達は、俺の点数を聞いて、
「なんだ高谷ってもう少し頭良いと思ってた、そんなに低いんだ~」必ず言われる。
そういう奴ってそういう時、必ずと言って良いほどニヤニヤしながら言うんだよね。
でもこいつらも文系なので国語と英語の点数を聞くと・・・・・・ふーーん、俺が底辺グループだからって俺の点数の内訳を聞いてこない・・・・・・フフーンだ。
俺の考えが正しいって一人自分で・・・確信し・・・自分を慰めて・・・何も言い返さない事を徹底している。
父も母にも、ちゃんと説明してテストの結果を見せて納得してもらってるし、父も母も高田大学OBで、一般入試に学校の成績は関係ない、受験科目が一番大事だと言ってくれた。
数学が・・・と言ったら
『大丈夫だ、理系職に就かないなら、社会に出て使うのは高校数学の基礎レベルまでだ、それよりPCスキルと、微分積分だが、これは数Ⅲになるから高校の文系では本格的には学ばないし、大学で経済、金融系の科目を履修するとき勉強すればよい、まあ、英語力は必須だな、俺の会社にも入りやすいが、英会話ができると選択肢はかなり増える。
ただトワックや英会話は大学に入ってからでも十分間に合う。それより、ちゃんと予備校に行って、今から日本史もやりなさい」と逆に俺に活を入れて、支持してくれる。
つまりは、父が以前バイクの特訓をしてくれた時に、言っていた事を実行している。
他の連中の親は子供にそういう事は言わないんだろうか? 総合点で俺より良い順位でも、その内訳じゃあ俺より良い大学には受からないぞ~って思うんだけど・・・・・・。
また武村から呼び出され、いつものように村井さんが手を振ってきた、・・・今もバクドに2人でいる。
予備校の夏季講習について聞きたことがあるのかな?と思って一緒に行き、
いつものように、バーガーを食べ、コーラを飲みながら、いもを食べ、会話が始まる
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