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校内一の強面教師として知られる古文担当の吉村先生の授業中、放屁の音が教室内に鳴り響いた。
音がした方を見ると、隣席の成沢さんが、顔を赤くして俯いている。
落ちた消しゴムを拾おうとして、鳴らしてしまったらしい。
恥ずかしいのだろう。
世界の終焉を迎えたような顔をしている。
男として成沢さんをこのままにしておけないと、使命感にかられた僕は、腸に全力を注いで彼女の放った三倍の大きな音を教室に響かせた。
みんなの視線が僕に集中したところで
「もらい屁しちゃったよ」
と一言。
直後、静かだった教室は爆笑の渦に。
吉村先生は苦笑いしている。
成沢さんも
「もらい屁って何?私が悪いみたいに。あっ、私が悪いのか。ごめんね」
笑ってカミングアウトができるほど、気まずさが薄れたらしい。
その日以降、彼女の中で僕は
「オタク気質の眼鏡」
から
「困った時に助けてくれる頼れる眼鏡」
に昇格したついでに尊敬の対象となったらしく、僕に手作りの弁当やお菓子を持って来るようになり、告白までされた。
嬉しかったけど、放屁が縁で付き合い始めたというのも違うような気がして、お断りしてしまった。
だけど成沢さんは、一度断られただけで諦めるような人ではなかった。
お断りしてからも熱烈なアプローチを受け、積極的ストーキング行為も受けるようになった。
こうして放屁事件から数ヶ月後、根負けした僕から成沢さんに告白して交際が始まり、卒業した今も続いている。
当時を知らない友人から
「交際のキッカケは?」
と聞かれることも増えたけど、その度に
「彼女の放屁」
と答えていいのかどうかに悩んでいる。
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