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剛志と私が出会ったのは、真夏の海だった。
海辺のカフェでアルバイトをしていた私とお客さんとして来ていた剛志。剛志が私に一目惚れをした、そう言う事になっているけれど、先に一目惚れしたのは、もしかしたら私の方かもしれない。
鍛え抜かれた逞しい身体、短く刈り揃えられた髪型、真っ黒に日焼けした顔、一度笑うといつまでも笑顔が続いて、見ているだけで幸せな気分にしてくれる、そんな雰囲気に、私の心は奪われた。
彼は帰り際にまた来るね、と言って、週末になったら本当に来てくれた。それからも彼は、週末毎に会いに来てくれた。そして夏の終わり、八月最後の日曜日に大きな花束を抱えてやって来たのだ。
11本の向日葵の花束……
その時の私は、花束に込められた彼の気持ちなんて知らなかったのだけれど、それは、最愛、を意味していると言う事を、あとで知る。見かけによらず、彼はロマンチストだった。
海のシーズンが終わると、私達は、山へ出掛けるようになった。彼は山男だった。国内に留まらず、海外の凄い山に一ヶ月以上掛けて挑戦したり、誰も登らないようなマイナーなルートを開拓したり。彼の職業は山岳ライターだったから、登山は趣味と実益を兼ねていたのだ。
彼が山の事を話す時は、目がキラキラと輝いていて、そんな山の魅力を沢山聞かされた私も、すっかり山の虜になった。最初は、高尾山とか箱根とか、観光客が登るような手ごろな山からスタートして、段々とレベルが上がっていった。
彼は、山登りのマナー、装備の使い方、地図の読み方、緊急時の回避方法。それに高山植物や、原生林に生えている樹木や、キノコ、それに野生動物のあれやこれやを色々と教えてくれた。
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