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私は、もう死んだのか? さっき真っ暗闇の空に身を投げだしたけど、それから少し時間が経つが、まだ私の身体は浮いているようだった。 身体を夜空に投げ出して、そのままあの世の宙空を彷徨っているのか? きっとそうだろう…。 このまま、ひたすらこんな暗闇の中を彷徨い続けるだけなのか… これが"死"というものなのか… だがその時、私は自分の身体をそこに見た。 私にはまだ身体がある…! そして私の身体の下には、煌めく街のイルミネーションの輝きが見えた。 私の身体の腕や手には、何か不気味なものが幾つか巻きついていた。 何だ、これは? それはよく見ると傘の柄だった。 幾つかの傘の柄の曲がった部分が、私の手足にぐにゃりと巻きついていた。 どうして…? 気がつくと私は、自分の身体ごと真っ暗闇の夜空を飛んでいた。 じゃあ私は地上の地面に落下しなかったのか? どうして? そのことの答えが、しばらく目を凝らして辺りを見回していると徐々にわかり始めた。 私は、夥しい数の傘の大群と一緒に、暗黒色の空を舞っていた。 大量の傘という傘が私の身体に巻き付き、そして私と一緒に空を飛んでいた。 さっき屋上にいた時よりさらに心地よい風が私の身体を癒していく。 何が何だか訳が分からないまま、私はしばらくの間、ずっと大量の傘と共に真夜中の夜空を飛翔し続けた。 「こんな土曜日の夜もあっていいよね。真夜中の夜間飛行」 その時、突然、"彼"の声が聞こえた。 「何がどうなってるの? 」 「知らない。でもこんな土曜の夜があってもいいよ。夜間飛行を愉しもう」 「…そうね」 私と彼は、土曜日の真っ暗な夜の空を、大量の傘と共に夜間飛行して愉しんだ。 真下に見える、煌めく街のネオンの灯の数々が、私たちを祝福しているように見えた。 しばらくして、大量の傘は、私を地上に着地させると、いつの間にか何処かに消えてしまった。 傘の群れが何なのか、まるで訳がわからないままだったが、確か前に奇妙な都市伝説を聞いたことがあった。 都市の高層ビル街の空を飛び交う、空飛ぶ傘=スカイアンブレラ。 ある時、人は、それを目撃することが出来る…。 スカイアンブレラ…。 「これからどうする?」 その時、まばゆいばかりに美しい彼の姿が見え、私に笑顔でそう話しかけた。 「そうね。土曜日の夜はもうおしまい。もうすぐ朝が来そうだし。空も白々と明け始めているわ」 「それじゃあ、また来週。待っているからね」 「いつまで?」 「いつまででも。僕は君をいつでも待っているから」 「それじゃあまた。土曜日の夜に。この街で」 「ああ。ずっと一緒さ」 彼は小さな風に乗って、消えていった。 きっといつかは私も風に乗って、どこかに消えてしまうのだろう。 でもそれまで"彼"と共に生きていこうと思った。 こぬか雨がそぼ降る中、白々と明け始めた土曜日の夜の、まだまだ煌めいたままの街のネオンに温かく包まれながら、私は一人始発電車に乗って、穏やかに家路に着いた。 (終)
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