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スターバックスを出て、真っ黒な傘をさして、土曜日の夜の渋谷を一人歩く。
ひと頃前に比べたら、かなり人の数が減ったような気がするけど、でも真夜中にこんなに人が歩いてる場所という点ではそれほど変わっていないような気もする。
動き続けている街の灯りが温かい。
誰か知り合いがいるわけではない。
ここにいる人達の誰一人誰だか知りはしない。
でも真夜中にこうやって、一人ぼっちで街を歩き回っているのが何故か好き。
ネオンの灯りが雨に曇りながら、妙にこちらを見つめているような気がする。
気のせいか?
ただの気のせいだろう。
でも別にそれで構わない。
私の人生なんて、すべてただの気のせいだから。
「雨の街に、ようこそ」
その時、いつもの"あの声"が聞こえた。
「こんばんわ」
「土曜日の夜はまだまだこれから。楽しんでね」
「うん。今夜もよろしく」
「何処か行くところはあるの?」
「特にないわ。いつものスタバにはもう行ったし」
「ネカフェは?」
「今日は行かない」
「クラブはどう?」
「私が好きだったハコはもう無くなっちゃったし」
「そうか。じゃあどうする?」
「もうちょっと歩きたいわ」
「そう、じゃあお供するよ」
「ありがと。夜は長いわ。まだまだこれからよ」
「そうだね」
彼はいつも光輝いていた。
私には眩しいくらい…
ついじっと見つめてしまう。
そして、自分の地味さと較べてしまう。
私はただ、寂しいだけの真っ黒な女。
ただそれだけだ…。
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