8人が本棚に入れています
本棚に追加
3
ネオンの灯りがそぼ降る雨とクロスして不思議な色彩を醸し出す。
そんなこの街の景色が好きだ。
目の前のエスカレーターを宇宙遊泳のように昇っていくと、ビル街の景色がまた一段とよく見えた。
少し歩くと、そこには不意に真っ白なコンクリートで囲まれた静かな公園があった。
フェンスで仕切られ、ナイターが煌々と照らされたプレイルームでは、真夜中にスケートボードを楽しんでいる男の子らが数名いた。
そこをそのまま素通りして歩いていく。
「この先に小さなバーがあるよ。結構夜景が綺麗に見える場所でね」
「そう、じゃあそこへ行きましょう」
光輝く、私には眩しいほどに美しい"彼"に導かれて、私はそのバーに入った。
中にお客さんはいなかった。
カウンターの向こうにバーデン姿の男性が1人だけ。
「マンハッタンを」
私がそう注文すると、バーデンは無言で頷き、すぐにカクテルを作り始めた。
「マンハッタンとは趣味が変わったね。この間まではマティーニばっかりだったのに」
「気分転換よ」
「そう。そういうのは大事だよ」
目の前には都会の夜景がひたすら拡がる。
点在するネオンの灯りが妙に心地良い。
もはや私の生きる場所なんか、何処にもないことを、静かに教えてくれている。
なんて優しい先生…。
私はその優しさに寄り添いながら、二杯目のマンハッタンを飲み干した。
「どうしたの?いつもよりペースが早いね」
「そう?でも今はそんな気分なのよ」
「それなら構わない。どうぞご自由に」
「どうぞご自由に、か。いつも優しいわね」
「そんな。普通だよ」
「そうね。あなたとしてはそうかもしれない。でも私には、"あなた"しかいないから」
「僕で良かったら、何でも話を聞くよ」
「ありがとう」
でも彼と会うのも、もう今日で最後だろう。
最初のコメントを投稿しよう!