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詠眞は暫し沈黙したあと「え?」と低い声を上げた。
「彼って書いてあるよね……。ビジュさん彼? お、男……とか?」
心に留めておけない声は自然とこぼれ落ちてしまう。一度ディスコードを閉じてゲームを開いた。それからビジュの画面にとんだ。アイコンは相変わらず課金を重ねてようやく手に入る美女のキャラクター。戦力は高く、詠眞が持っていない装備をたくさん持っている。
『ビジュ仕事かな?』
『昨日何も言ってなかったから今日インするはず』
『今週末のイベントの話しなきゃ』
『ちょこれーとさんも参加するって聞きましたよ(^^)』
『皆で行きますか! 素材欲しい。うさ子国チャット見た? 他ギルド荒れてる』
『見た。途中まで追った』
『なんかよくわかんなかった』
『俺も。翻訳するんめんどくてやめた』
うさ子♪との会話に加わるようにして【温野菜博士】が入ってきた。よくゲーム内チャットでも参加しているユーザーだ。
詠眞はポップアップ機能で画面に現れる文字を目で追っていた。しかし、ディスコードをもう一度開き、そのやり取りを呼んだ時、詠眞はまたしても「ええ!?」と大きく声を上げた。
うさ子♪の発言には「俺も。」の文字。詠眞はずっとうさ子のことを女性だと思い込んでいた。こちらは詠眞がギルドに加入してすぐに個人チャットに挨拶しにきてくれたのだ。
その時から一人称は私だった。その後のやり取りでも詠眞と話すときはいつも「私」を使っていた。
それがどういうわけだか「俺も」と書かれている。しかも、普段のうさ子♪とは随分印象が違う「めんどくてやめた」なんて言葉。
それに対して温野菜博士は普通に返信しているため、おそらくこんなやり取りは日常的にあったのだろうと思えた。
……え? 待って。うさ子♪さんも男性……? で、ビジュさんも男性?
あれ? どういうこと……? ここ、女性ばかりのギルドだと思ってたんだけど、男性ばっかだったってこと?
詠眞が考え事をしている間にもうさ子♪と温野菜博士の会話は続く。そして、ずっとバイブ音が響いてるスマートフォン。詠眞はようやくその存在に気付いた。
なんかさっきからずっとスマホ鳴ってない? 急ぎの電話かな? 課長に知らせた方がいいのかな……。もしかしたら菊川さんと阿部さんの件かもしれないし。うん、賢人の件かもしれないし。
会社からの連絡かもしれない。そう思った詠眞はまだ鳴りやまない冴久のスマーフォンに近付き、それを持ち上げた。
詠眞の手の中で震えては止まり、また震え出す。相手が誰か確認したらまずいかな……そう思いながらもそれをひっくり返した。
『とりあえずビジュ待ちで』
スマーフォンの画面にポンと映し出された文字が詠眞の目に入る。
「え……。えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
詠眞は絶叫とも呼べる大声を上げ、顔の筋肉を硬直させた。
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