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スマートフォンを持つ手は震えた。一瞬自分のものかと疑ったほど。しかし、大きさも色も違う冴久のスマートフォンにはしっかりと詠眞と同じ通知が届いていた。
詠眞は黙ってそっと冴久のスマートフォンをもとにあった場所に置いた。全く同じようにもとに戻したのだ。それからそれをじっと上から見つめた。
どういうこと……。これってギルドのディスコードだよね?
同じギルドに課長がいるってこと? いや……そんなはずがない。あんな頭でっかちな仕事人間がゲームなんてやってるはずがない。
で、でもそれだと通知が届いた説明がつかない。仮に、もし仮に同じギルドの人だとしたら……。
詠眞はそう考えながら、自分のスマートフォンの画面を見た。まだ開いたままだったディスコードの画面。チャットの参加メンバーをリストで表示させた。ビジュやうさ子や温野菜博士に続き、ギルドメンバーの名前がずらりと並んでいる。当然中には登録しているだけで全く発言してこないメンバーも存在する。もしやそちらじゃないかとよく知らないメンバーをタップしてみる。
だからといって当然そこにプロフィールが掲載されているわけではない。されていたとしても誰も個人情報は明かさないだろう。
全く情報がつかめないまま詠眞は呆然とした。
うさ子♪さんに聞いてみる? うちの課長知りませんかって。いや、わかるかいっ! で、でもでも知りたい! だって課長にバレたら……気まずいし。同じギルドとかやだ……。横井のやつ、イベント張り切ってるな。とか思われたらさ……仕事はできないくせにゲームだけは一丁前だなとかさ。
いやだよ。課長のことだからギルドに加入してたってどうせ適当にやって熱中してるユーザーをバカにしてるに決まってんだ。
くぅー! と悔しそうに拳を握った。とにかく知られるわけにはいかない! 知らないふりを貫き通そう!
「横井? 絶叫が聞こえたがどうかしたのか?」
詠眞がディスコードの件は見なかったことにしよう。そう決めた瞬間、リビングのドアを開けた冴久が顔を出した。フェイスタオルで頭を拭きながら詠眞に近付く。冴久の寝間着姿など想像したこともなかったが、全く違和感のないネイビーのパジャマだった。
タイミングよすぎるだろ! しかもパジャマ選択する人だった! まあ、スウェットって感じじゃないし、Tシャツ・短パンってイメージもないけれども。って、別になにで寝てもいいんだけどさ!
ぐわっと詠眞が心の中で叫ぶと、それに反応したかのように冴久がフェイスタオルを手に持って顔を上げた。その瞬間、光を放ったかのように詠眞の目にペカーっと眩しく映った。
うわ! 目がやられる! なんて神々し……じゃなくて美しい……じゃなくて……。うん、イケメンの無駄遣いかよ。
詠眞は無駄に色気を放って気だるそうな顔をしている冴久を薄目で見つめた。
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