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詠眞はぐぬぬっと表情が崩れないよう必死に表情筋維持に努めた。自覚はあるのだ。面食いだという自覚が。そもそも賢人を好きになったのだってその容姿に惚れたからである。キスをするなら、間近で顔をみるならそりゃ綺麗な顔に越したことはない。
見た目から入っても付き合いたての頃は優しかった賢人をどんどん好きになった。好きの度合いに明らかな差が生じると、本性を現したかのように口調や態度が変わっていった。それも徐々にだったものだから、詠眞も変化に気付くのに時間がかかったのだ。
ダメだ、ダメだ。顔のいい男なんてろくなやつはいないんだから。賢人で痛い目見たじゃない。モテるだけで害なのに悪態ついてくるなんて最悪よ!
課長なんて飴なしの鞭100%男なんだから! ……家にお世話になってて言えた義理じゃないけど……。
悔しいけどくっそイケメンだな! 鑑賞用なら常に家に置いておきたいレべ……
「おい。聞いてるだろ。なにかあったのか?」
詠眞の思考を遮るようにして冴久がそう放った。メガネのない冴久の目は普段よりも大きく見えた。意外と二重の幅が大きくて、黒目もはっきりとしている。それでいてその範囲も広いから余計に瞳がくりっとしている。
更に完全に下に降りた前髪が幼さを強調させた。
「い、いえ! 少し個人的に驚いたことがあって声を上げてしまっただけでして……」
とりあえずそう返事はしたものの、視線はその顔に釘付けである。
これは……イケメンはイケメンなんだけど。前にメガネ取るとなめられるって言ってたけど、こういうことだったのね。童顔を必死に隠してたのか。随分年上に見えるって思ってたけど、これは年相応どころかかなり若く見える……。20代で主任になってもこれじゃなめられるか……。
いやー、それにしても見事な美青年。いいものを見させていただきましたわ。
「……なんだ。人の顔をじっと見て」
またしても心の声を読んだかのように冴久は苦い顔をした。目尻を引きつらせて詠眞の視線に耐えているようだった。
「あ、いえ……雰囲気が変わるなと思っただけでして」
「見るな。あまり好きじゃないんだ、この顔」
そう言って冴久はふいっと顔を背け、再び頭を拭き始めた。本当に不服そうな態度に詠眞は首を傾げた。
「どうしてですか? 整っててとても綺麗ですよ?」
「は!?」
素直な感想を述べた詠眞に対し、冴久は驚愕して勢いよく詠眞の方に振り返った。その頬は、詠眞が一瞬で目を見開くほど紅潮していた。
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