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相手を知りたいから付き合う。そう思っていた冴久と、付き合うほど好きだから触れたいと考える相手とでは当然感覚が合うはずなどなかった。
結局誰と付き合っても長続きはしなかった。
友人関係を経て交際に至った彼女とは体を重ねたが、仕事が多忙となり会える時間が減るとやはり彼女も離れていった。
「私は冴久のこと顔で選んだわけじゃないからね! 中身を好きになったの!」
そう言ったくせに、別れたあと街中で見かけた彼女は容姿の整った男性と腕を組んで楽しそうにしていた。
……顔のことに触れてくるやつなんてろくなヤツがいないんだ。いつだって理想を押し付けて、想像と違えばあっさりと手放す。横井のヤツ、さらっと綺麗だなんて言ったが、千葉賢人も顔が良いと騒がれていた人物だったな。
所詮横井も……いや、なぜあんなにも他の女性との噂が絶えなかったのに泣いて縋ったりしたんだ?
冴久にはさっぱりわからなかった。詠眞と賢人の関係性は、冴久には理解できないことばかりだ。
手を伸ばしてスマートフォンを持ち上げた。画面が通知でいっぱいに埋まっている。1番上に表示されていたディスコードを開く。
ずらずらと続く会話を遡った。普段から会話をしているうさ子♪と温野菜博士。自分がINするのを待っている様子だった。
そこにちょこれーとも存在している。冴久ははたと顔を上げた。置き去りにしておいたスマートフォン、いくつもの通知、うさ子♪の発言後から参加しなくなったちょこれーと、脱衣所まで聞こえた絶叫。
一気に情報量が頭の中に流れて、冴久はさあっと顔を青くさせた。
「まさか……気付いたのか?」
冴久の手は、先程の詠眞のように震えていた。絶対に知られてはいけない。そう思っていたのにもかかわらず、いつもの癖でスマートフォンをリビングに置き去りにしてしまった。
まさか詠眞がリビングに留まり続けることがあることなど想定していなかった。居心地の悪さを感じて部屋に閉じこもってしまうだろうと思っていたのだ。
個人的に驚いたことがあったと言った詠眞。あの時言わなかったということは、詠眞も知らないふりを通したいということだろうか。
冴久は汗が吹き出すのを感じた。せっかくシャワーを浴びたというのに暑くてたまらない。
それもこれも今起こっている事態がどこまで進んでいるか把握できないからだ。同じゲームをしていることに気付いたのか、ギルド所属まで気付いたのか、冴久がビジュだというところまで辿り着いたのか。
……知らない振りを通せばいいか。
冴久はきゅっと口を結んで何事もなかったかのようにディスコードに『お待たせしました!』と書き込んだ。
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