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冴久は必死でなんと返したらいいのかを考えた。詠眞がこのアプリゲームにハマっており、ビジュに憧れているのも感じていたのだ。
故意に性別を偽っていたわけではないにしろ、少なからずショックを受けているだろうとは冴久にだってわかる。
今回、冴久が同じギルドにいるのを隠したかったのも、事実を知ったら詠眞がこのゲームを辞めるのではないかと思ったからだ。
他人の趣味を自分の都合で奪ってしまうのはいかがなものか。そんな良心が今の現状を作った。
しかし、もはや隠し通せるものではない。これで横井がゲームを辞めるならそれまでか。そんな思いを抱きながら、冴久はゆっくりと口を開いた。
「……別に騙すつもりはなかった。性別も偽っていたつもりもないが……その、横井がビジュを女性だと思い込んでいたことは理解している」
冴久としては真摯に向き合ったつもりだった。全く知らない振りを通すのも違うし、向こうがどこまで把握しているかわからない以上、下手に隠すのもおかしなことだと思った。
「え……。理解しているって……課長、私が同じギルドにいるって気付いてたんですか?」
今度は詠眞の方がさあっと顔を青くさせた。冴久がまるでずっと前から気付いていたと言わんばかりの言い方をしたからだ。
「ああ……。少し前に、部署内で竹本にギルドの話をしてるのを聞いた」
「なっ……」
詠眞はがーんっと顎が外れそうな程口を大きく開いた。なぜ気付いたのかと疑問に思っていたところに、自爆した事実を突きつけられた。
「気まずくなるだろうから言わない方がいいと思って黙っていたが……」
冴久と詠眞のスマートフォンが同時にブブッと音を立てて震えた。おそらくうさ子♪から返信がきたのだろう。
やはりショックを受けているようだな……。まあ、当然か。週末のイベントも相当楽しみにしているようだったから、それも参加させてやれなくなると思うと心苦しいところではあるが……
「あの、課長がビジュさんってことは……今週末のイベントはちゃんと教えていただけるってことでよろしいんでしょうか?」
「は?」
冴久の考えを遮るようにして放り込まれた質問。神妙な面持ちで詠眞はぐっと顔を冴久に寄せた。
「私、どうしてもあのアイテムは欲しいんです。ディスコード遡ってやり方読んだけど、やっぱり理解できなくてですね」
「……そんなに難しくないはずだが。ただ、治療兵の数によってポイントが貰えるシステムだから、ギルド内で協力して先に負傷兵を作ってからイベントに出かけるのが得策で」
「ああ、それが10万の負傷兵がっていう……」
納得したようにポンっと左手のひらに右手の拳を乗せた詠眞。なるほど、の顔で冴久を見上げ、真面目に説明した冴久も真顔のまま詠眞の顔を見つめた。
そしてまた訪れる暫しの沈黙。
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