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詠眞は自らそう尋ねたあと、急激に恥ずかしくなった。ビジュはとても憧れだったし、アイコン通りの美人な女性だと信じて疑わなかった。
しかし、冴久がビジュだと知った途端に思ったのは、冴久が気まずくなってゲームを辞めると言い出したら、今週末のイベントは誰が教えてくれるのかという疑問。
更に、ギルドはどうなってしまうのかという不安。自分が同じギルドにいながらそのままにしておいたということは、少なくともビジュが率いるギルドから追い出すつもりはなかったということ。
詠眞を突き放すつもりがないなら、自分が辞めるという選択をするかもしれないと不安になったのだ。
どうしてもアイテムは欲しい。今ビジュに辞められてしまうのは非常に困る。そして最初からお世話になっているこのギルドがなくなってしまうのも非常に困る。
そんな思いを全てすっと飛ばして、イベントについて教えてくれるのかと尋ねてしまったのだ。冴久は至って真面目な顔をしてはいるが、先程困惑したような声を上げたことにも気付いている。
質問を間違えたことに気付いた詠眞は、自分の発言に対して羞恥心を抱かずにはいられなかった。
双方、何を考えているかわからない状態で見つめ合い、どんな言葉をかけるのが正解なのかと様子を伺う。
「あのぅ……私はまだギルドにおいてもらえるんでしょうか」
間抜けな質問ついでに詠眞はそう尋ねた。今までギルドにいられたのは、詠眞自身が冴久の存在に気付いていなかったからということも考えられた。もしや、これをきっかけに追い出されるんじゃ……と考えを改めたのだった。
詠眞の質問にただただ驚く冴久。目を見開き、不思議そうに首を傾げた。
「俺はかまわないが……。横井の方が嫌なんじゃないのか?」
「いえ……私はその……」
確かに同じギルドは嫌だって思ったけど……それは、私みたいに課金してるユーザーを見下してるんじゃないかと思ったからであって……。
ビジュさんだったとなれば、むしろ辞められる方が困るんだけど……。
そうとは言えず、詠眞は「課長の方が嫌なんじゃないかと思ってました……。ギルドを追い出されるんじゃないかと……」と言い方を変えた。
「そのつもりならとっくに強制退会させている」
その言葉に詠眞は確かに、と頷く。ギルマスであるビジュは、メンバーを加入させるも脱退させるも自由なのだ。その権限があれば、ちょこれーとにはなにも言わず、勝手にギルドから追い出してしまうこともできた。
そうすれば少なくとも詠眞は冴久の存在を知ることはなかった。
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