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詠眞はなんとなくほっとした。あんなにも冴久と同じギルドにいたことに動揺したはずなのに、これでもうコソコソ怯えながらゲームをする必要がなくなったことを実感したのだ。
それは冴久も同じだった。ギルドに置いてほしいと言われれば、特に断る理由もない。更に、自分がビジュだと知ってもっと軽蔑されるかと思いきや、彼女の目的は完全にレアアイテムに向かっているのだから。
お互いに予想していた最悪な展開から逃れられたといっていい。
「あの……イベント、始めないんですか?」
詠眞がスマートフォンを顔の横に掲げて言った。時刻は予定の22時を2分過ぎていた。冴久も自分のスマーフォンに目を向け「……始めるか」と呟いた。
詠眞が頷くのを確認してから冴久はイベントを解放させた。
「課長……、ビジュさんっていつもこのイベント攻撃めっちゃ早いですよね。進軍速度って個人のレベルに関係なく一律のはずなのに、私とは攻撃数に天と地ほどの差があるんですけど」
すっかり『ちょこれーと』の詠眞は、ゲーム画面を見つめながらそんなふうに話しかける。普段の詠眞とは違い、少し砕けた物言いに一瞬驚いた冴久だったが、今はプライベートだしまあいいか、とさらりと受け流すことにした。
「進軍速度は同じだが、そもそも兵士のレベルが違うから一撃した時の攻撃数も違う。ただ、効率のいいやり方はあるかな……」
冴久は普段どうなふうにやっていたかなと考える。
「効率のいいやり方ですか? 私はいつも、ここをクリックして敵のところまで行くんですけど」
「ああ、それよりも直接画面上のターゲットをタップした方が早い。他のメンバーの動きも見れるしな。敵のレベルが低い内は同じターゲットに何度も攻撃に行くとその分ロスになるから兵士がもったいない。他のメンバーが向かっていたら自分は待機。それで、新たな敵が現れた瞬間にそれをタップして攻撃する」
「うーん。ちょっと、見せてもらっていいですか」
冴久の説明だけで理解できない詠眞は、ととっと冴久の隣に回り込み、スマーフォンの画面を覗き込んだ。冴久は、詠眞の身長に合わせて少し屈み、手を下げた。
「ここでタップして、攻撃するだろ。こっちはもううさ子♪が攻撃に行ってる矢印が出てるから触らない。次のボスはここに出現するからここで待機。出現と同時に攻撃」
一連の流れを冴久が実際にやって見せる。
「おおっ……」
「この繰り返しだ」
「なるほど……。こうして、こうして……こう」
「そう」
2人立ったまま、お互いのスマートフォンを並べて画面を指で叩く。
「そっち、攻撃行けるか? 俺、進軍枠いっぱいだ」
「私、あと2枠空いてます」
「多分、そのレベルだと勝てないから2軍ともその敵に出していい」
「了解です」
食い入るように画面を見つめたまま、2人は夢中でイベントに参加した。
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