幸福搾取

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「彼女はお前らと違って金にがめつくないんだよ」  友樹は『お前ら』と言いながら、奈子に反論しながら私までも貶した。  慰謝料は、私ががめついから支払わなければならないわけではなく、自分が不貞を働いたからなのに。 「30にもなって『愛はお金では買えない!!』とかほざく系? 馬鹿に限ってそういうことを恥ずかし気もなく言うのよ。ていうか、不倫なんて馬鹿げた愛、正気な人間は無料でも欲しがらない。ゴミ以下。用も済んだしもう帰ろう。あーちゃん、タクシー呼ぶね」  友樹(と松岡さん)をゴミ以下呼ばわりした奈子が、スマホを取り出しアプリでタクシーを手配した。 「あ、これで足りますか?」  私もあわてて財布から1万円を引き抜き、弁護士さんに手渡す。「そんなにかからないし、そんなの慰謝料が無事に入金されてからでいいから‼」  しかし弁護士さんはお金を受け取らず、奈子の腕に抱かれた赤ちゃんを受け取り抱きしめると、弁護士からお母さんの顔へとクルっと表情を変えた。  お母さんの胸に抱かれてニコニコ笑う赤ちゃんと、幸せそうに微笑む弁護士さんの顔を見て、やっぱり私はお母さんになりたいと思った。
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