幸福搾取

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「奈子に何か困ったことが起こったら、今度は私が助けに行くよ」  奈子にはたくさんお世話になってしまった。今度は私が奈子の役に立つ番だ。 「言っておくが、私は割と常に困っている」  奈子が私の意気込みを躱すように「フッ」と鼻で笑った。 「弟さんのこと?」 「障がいを持っている弟を【困った存在】なんて言っている私は、とんでもなく非情な姉なんだろうね」  奈子が大きな息を吐いた。これは溜息なのだろうか。だとしたら、弟さんへのものなのか。自分に対するものなのか。 「……私が奈子の弟さんの立場なら、自分のせいで奈子が何かを犠牲にしたり、奈子の重荷になったりするのは嫌だと思う。私だったら、施設に行きたいと思う。……施設って障害年金で賄えるくらいの値段だよね?」  実はお腹の子のNIPTをしないと決めたとき、この子に何かあっても幸せに生きていけるようにと施設のことを色々調べていた。
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