過食の男

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 俺がこの住宅機器メーカーで働き始めて16年になる。傍から見るとすでにベテランで、自分でも大抵のことは経験してきたつもりだ。  課長の菅は1年後輩で入社してきた。仕事に熱心だったが、周りとの付き合いは、あまり上手ではなかった。どちらかと言えば、仲間を蹴落としてでも上を狙うタイプで、いつもギラギラした眼をしていた。  一方の俺はいつもそこそこの成績だった。ただし、客との関係はいつも気にしていた。購入いただいた商品に関するフォローや、予算内で納まる商品の選定、家族構成や年齢に応じた商品の紹介など、売り上げよりも、その後にある暮らしを見ていた。  売り上げを重視する菅。客目線の俺。入社して10年が経つ頃には、菅は俺を特別視するようになっていた。  睨みつけてくる菅をよそに、俺は新商品の性能や客との会話を楽しんでいた。
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