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9:00 pm
ここにいると時間がわからない。
でも、結衣が着くって言ってた時間は過ぎているのはわかる。
ゆいちゃん、どうしちゃったんだろ
心の中でつぶやく
ホストを始めたころ、先輩に言われたとおり、必死で動いた。
でも、もともと口下手で、派手なのも、目立つのも苦手。
キャスト全員が集まるコールも、一番後ろにたっていた。
客の隣りに座っても、おもしろくない!と言って、ウイスキーを顔にかけられたこともある。
つまんないからおもしろくしてって言われて、靴をなめろって言われて足を差し出され、躊躇してたら先輩ホストに、
「姫さまが言ってんだからやれ!」と、顔を押されたこともある。
この仕事、向いてないから他の仕事探さなきゃって思っていたところに、結衣がやってきた。
普通に飲んで、普通にしゃべって、
ストレス発散のために無理難題を投げかけてくる客とちがい、OLの女の子の会社の愚痴を聞くのも新鮮で、翔も楽しかった。
そして、初指名されたのが結衣
結衣のおかげで、もう少し頑張れる気がした。
目立つのが苦手な翔の、初めてのバースデーイベント
結衣ちゃんに見てもらいたい。
そう思って、何度も何度もラインした。
「翔、送り指名はいったぞ」
先輩のタクヤに呼ばれた。
「はい、ありがとうございます。」
「何人か指名とれたみたいで、よかったな、がんばれよ」
「はい」
呼ばれた席にいく
「マナちゃん、送り指名ありがとう」
「翔くん、飲みすぎちゃった、酔っ払っちゃったよ」
翔にしなだれかかってくるマナの肩を抱き、
「大丈夫?
僕につかまって」
ふらつくマナをしっかり支えながら、踊り場にむかった。
指名を受けたホストがふたりだけの時間を過ごせる最後の場所、
それが踊り場。
結衣とも何度もここで最後の時間を過ごした。
踊り場に来ると、雨がかなり降ってるのがわかった。
「翔くんってさ、あんましゃべんないけど、隣りにいるとホッとするんだよね」
「ありがとう、待ってるから、また来てね」
ゴォーーーーッ
急に雨音がひどくなった
踊り場にも雨粒がふきこんでくる。
「きゃぁ!こわい」
マナは翔にしがみつき、唇をよせてきた。
「大丈夫だよ」
そういいながら、翔はマナにキスをした。
何度も結衣を踊り場で送ってきたけど、まだキスしたことなったな。
いつもギュッと抱きしめるだけで終わってた。
結衣ちゃん、この大雨で来れなくなっちゃったのかな。
マナと唇を重ねながら、雨粒を背に受けて、翔はそんなことを思っていた。
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