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集中豪雨
ザアザアと激しい雨が窓を叩く。私はかまわずいつも通り窓枠に腰掛けた。さすがに集中豪雨とまでくると、あっという間に全身びしょ濡れだ。顔や肩にへばりついた髪をはらいのけたが、大して意味はなかった。まあ、大した問題にもならない。と、放っておくと目の前に、あじさいが仁王立ちした。
「アンタねぇ……せっかく綺麗な顔してんだからもう少し気ぃつかいなさいよ」
と、あじさいは顔を顰めて私の顔を覆う前髪をかき上げた。
「なんで触れるの……?」
「ポルターガイストの延長線ぐらいに思っときなさい」
「なるほど……?」
ひとしきり髪をいじって満足したのかあじさいは、「やれやれ」と隣に座った。しかしそちら側には開けたこちら側の窓がある。窓ガラスから足が飛び出しているその光景はなんとも滑稽に見えた。
時折町を照らす稲光に思わず顔を顰める。
「何考えてるの?」
また唐突に、隣から質問が飛んできた。……もういい加減慣れてきた。
「何も」
雷鳴が轟いた。……雷を見ていると何か、胸の奥がざわついて、ひんやりとする。けれどこの感覚を上手く言語化できない。無理矢理口に出してみようとしてみても、喉が凍った様に冷たく固まってどうにもできない。
「アンタ、今酷い顔よ」
「……煩い」
稲光がピカッと照った。
(なんなの。この気分)
「どっか行って」
あじさいの口が動いた……が、雷鳴が轟いてほとんど聞こえない。でも今はどうでもいい。一刻も早く私は1人にならなければいけない。
(そうしなきゃ私は、この人を)
「どっか行け‼︎」
手近にあった紫陽花を生けた瓶を投げつけようと手を伸ばした。
「え──?」
私の手は、すっと瓶をすり抜けた。
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